≪四節;伸びる魔の手≫
〔“少し鬱陶しい―――”ブリジットはそう思っていました。
自分たちが共同事業主と、一緒に開設している『シャンバラ商会』・・・
そこに、ここ二週間も来店しては、“私の可愛い妹はどこか〜〜”と、迫ってくる人に、
少々幻滅していたのは確かな事実―――
それが・・・その女性と一緒に来ていた少年が、自分たちのところにいる少女に抱きついていたのを境に、
来なくなってくれたのは幸いだ―――と、思っていた・・・
しかし、ここにもう一つ―――〕
客:―――すみません・・・少しよろしいでしょうか、マドモアゼル。
ブ:・・・またあなたですか―――申し訳ないが、いくら頼み込んでも、
出所の判らないところからの融資を受けるつもりはありません。
客:そう仰らずに―――このはなし、お互い損をするようなモノではないと・・・
ブ:くどい―――!
私と共同でこの事業を立ち上げている主は、この私を信頼して商会の運営を任せて下されているのだ!
それを・・・どこの誰とも判らない、アンノウンな存在を顧客に選んだとあっては、
主に対しても申し開きが立ちません。
―――ご理解いただけたのなら、帰っていただきましょう・・・
客:・・・・・そうですか―――ですが、私どもはまだ諦めたわけではありませんよ。
私―――という存在で役不足であるというのならば、今度は私どもの雇い主と直接会われてはいかがでしょう・・・
その時には、あなたも心変わりをいたすでしょうから・・・。
〔その客人は―――美形にして危険な色香を漂わせる“男”だという・・・
一目見て、総ての女性を落とせるような甘いマスク・・・
低く―――落ち着きのある声―――
眼と眼を見つめ合わせると、たちまちその眸の奥まで引き込ませられそうな感覚に陥りそうになる、深い藍色をしたそれ・・・
けれど・・・たった一つ、ブリジットがこの人物は油断がならない―――とした理由は、
それがブリジットの、“女”としての本能だったのかもしれません・・・。
その男の名―――ビューネイ=クリード=サルガタナス・・・
後の世に、七魔将の=三傑=の筆頭といわれた人物と同じ存在・・・
そんな危険な人物のことを、100万年前の地球人がそう感じていたという・・・事実。〕