≪四節;運命の一時間≫
〔こうして―――時間は流れて行き・・・運命の時間より、一時間前・・・
女禍のいるテントに、アベルと祖母の二人が・・・女禍に与えるための食事を持ってきたようです。〕
ア:お姉ちゃん―――
女:・・・やあ、アベル君―――と、それに・・・
老:さぞや―――お腹がすいたことでしょう。
少しだけれど、食べておくれ・・・。
女:あ・・・でも、私は―――(ぐぅぅ~)
老:おやおや―――身体は、正直なものだねぇ・・・。
女:(あはは・・・)どうも申し訳ありません―――お恥ずかしいところを・・・
では、遠慮なくいただきます。
〔彼らを見ている限りでは、余り裕福な暮らしをしていない・・・
そのことは、この惑星の原住民ではない女禍でさえ分かる事でした。
けれど――― 一応はそれを断ろうとは思ったけれど・・・腹の虫というやつは、実に正直なもので、
いくら我慢しようとしても、寂しげに鳴く様は、
自分が、艦から降りてきてこの方―――何も口にしていないことを露呈したようなものだったのです。
その事を知られることとなり、ありがたく頂く事となったのですが―――
今度は、それをじっ・・・と、見つめるアベルが・・・・〕
ア:・・・・・。(ヨダレ)
女:・・・・ん? どう――― 一緒に食べるかい?
ア:えっ――― う・・・ううん―――い、いいよ・・・
ボク―――さっきお腹一杯食べたから・・・
女:ふぅん―――・・・・あの・・・
老:ああ―――私らは、先ほど食べてきましたんでね・・・
女:――――そうでしょうか。
老:えっ―――・・・
女:この・・・私に出された食事も、元はあなた方のものなのでは?
老:・・・どうして―――そう思いなさる・・
女:どうして―――って・・・なんとなくかなぁ。
その子の表情を見てもそうだし、それに―――今のあなたを見ても、そうじゃあないかな・・・と。
老:・・・・そうかい―――全くもってその通り。
あなたの思っている通りですよ・・・。
これは―――私とこの子が考えた、私たちなりの・・・せめてものお詫びのしるし―――
あなたを不当な目に遭わせてしまった―――と、言う・・・な。
女:(フ・・・)でも―――私本人はそうは思ってはいません。
どうでしょう―――たった一つしかないお皿ですが、三人揃って・・・と、いうのは。
老:・・・まるで―――あなた様は、メシア様のようなことを言われる・・・。
〔子供と本能は、正直なもの―――だから、自分が食べているのを見て、なにやら物欲しそうなアベルを垣間見、
そうではないか―――と、したところ、程なくしての老女の言葉に、
女禍は一緒にどうか―――との意志を伝えたのです。
すると、実際・・・その人を不当な目に遭わせておきながら、一つも迷惑そうな面持ちをしなかったこの女性に対し―――
老女は、自分たちの信教の聖典に出てくる 『救世主』<メシア> に、女禍がどことなく似通っている・・・
と、そう思うようになったのです。〕