<第二十二章;女禍の帰還>
≪一節;捕らわれの小禽≫
〔再三にわたるカレンの侵入の迎撃に当たるために、出撃をしたラゼッタが、
当事者であるはずのカレンを残して、行方をくらませた・・・
そして、半ば呆然としていたところを、ヴァンパイアのマグラに発見・保護され、
カレンは、彼らの本拠であるシャクラディアに連れてこられたのです。
それからというものは、様々な質問がなされましたが・・・
いわば“虜囚”でもあるからか、カレンの口は堅く閉ざされたまま・・・
このままでは、手の打ちようがないために、どうしてよいやら迷うところなのですが・・・
あれから――― 一週間もの時間が経った、ある日のこと・・・〕
カ:―――・・・。
オ:(オリビア;シャクラディアの職員)
(困ったわ・・・自分が捕らわれたのだから、何も喋りたくないのは判るけれど・・・
そうしてくれないことには、何も始まらない―――
こちらとしても・・・手を打つことが出来ない―――・・・)
〔カレンは―――捕らわれた・・・と、云っても、処遇的には虜囚のそれではありませんでした。
このトロイメア城の、使用されていない一室・・・
しかし陽当たりもよく、一般人の住む環境とそれほど大差のない部屋・・・
それに、出されてくる食事も、以前味わったことのある収容所のような味付けではなく、
普通の・・・それも、温かみのある家庭の味―――
これが一虜囚に対する処遇なのだろうか―――・・・
そうとも取れなくもなかったのですが・・・
今のカレンの頭の中には、以前接触したことのある連中から吹き込まれたことと、
激しくギャップのある事態に、混乱をきたしていたのです。
けれど―――それでは調書を採ることも儘ならない・・・
それに、当事者本人であるカレンの口から何も語られないままでは・・・
そんなこともあり、カレンを担当した一職員・オリビアは、
今日も何の収穫のないまま、部屋を後にしたのです。
ところが・・・丁度そこでばったりと出くわしたところに、マグラが―――〕
マ:―――どうだった・・・
オ:ああ・・・エルムドア様―――
いえ・・・今回も・・・
マ:何の収穫もなかった―――か・・・
だけど、僕が血を採ったことで、彼女がどこの誰かははっきりしている。
しかし・・・ここ最近、彼女の身の回りに起こった出来事は、きれいさっぱりと抜け落ちている・・・
オ:・・・記憶の操作―――ではないでしょうか・・・
マ:いや―――そんな感じではない・・・
今回の一件のショックによって、彼女自身が内部からプロテクトをかけている・・・と、云う感じだった。
ここはやはり、閉ざされた心の扉を開かなければ、ならないようだな―――・・・
〔依然杳として、語ることを頑なに拒んでいるカレン―――
しかし、マグラはそのことを、ウィドウたちによる 口封じ だとは思わずに、
むしろカレン自身が、彼女自身すら知らぬうちに、プロテクトをかけていることだ・・・と、したのです。
それに、そんなことをする者に対し、訊問の類を行ったとしても、
効果は薄いものだとマグラはよく心得ていたのです。
だからこそ・・・待ったのです。
そんなことの出来る―――硬く閉ざされたココロの扉を、開放できる者の帰還を・・・〕