≪三節;解けあうココロ・・・≫
〔カレンのココロは―――未だ揺らいでいました・・・
自分の故国を滅ぼした者―――・・・
偽りの仮面をつけ、同情という衣を纏い、自分に近づいてきた者・・・
一体―――“正義”はどこにあるのか・・・
そのことに戸惑いを感じながら―――・・・
ですが、そんな彼女にも、一つの転機が訪れたのです。
そう―――彼女の故国を滅ぼしたという・・・そのまさに当事者が、
彼女の前に現れたのだから・・・
―――また・・・誰かが来た・・・
でも・・・何を話していいか、判らない・・・
何から訊いていいかも、判らない・・・・
つまるところ、カレンが語りたがらない理由が、まさにそのことだったのです。
けれども、今回カレンの前に立った者は―――・・・〕
女:・・・君が、カレン=ヴェスティアリ―――だね。
カ:―――・・・。
女:・・・すまない、オリビアにマグラ―――席を外してくれないかな・・・。
オ:え・・・っ、ですが―――
女:私と彼女は、対話をする必要がある。
それも、当事者同士―――で、ね。
オ:・・・そうですか、判りました。
マ:―――だが、ボクはここに残ろう。
女:マグラ―――・・・
マ:あなたの云いたいことは判っている。
けれど、補足するのはボクの役目であり、また義務だ。
何しろ・・・あの一部始終を見ていたのだから・・・ね。
カ:・・・何を―――何のことを云っているの・・・?
女:カレン・・・心して聞いておくれ―――実は・・・私は・・・
〔一目見た第一印象としては、綺麗で淑やかな女性・・・
小豆色の髪を靡(なび)かせ、瑠璃色の円(つぶ)らな眸が実に印象的な―――
理知的で・・・それでいて聡明そうな女性―――
けれども、その印象を総て覆させてしまう、彼女からの一言の告白・・・〕
カ:・・・え? 今―――なんだって??!
女:私自身に誓って、ウソ偽りはないと云おう―――
カ:そ・・・んな―――? 私の・・・祖国を滅ぼした者が・・・あなた―――?!!
でも・・・でも・・・―――!!
女:・・・私が―――君の祖国である米を滅ぼしたのは事実。
そのことは受け止めておくれ・・・
〔そんな莫迦な―――こんなにも、優しそうな印象を与えがちな人が・・・
総合武力で世界中のどの国よりも、頭一つ抜きん出ている、私の祖国米を滅ぼした人物!?
そのことを、半ばジョークかユーモアの類か―――とでも云わんばかりに、カレンは否定的に聞いていたのですが・・・
その事実を裏付けるマグラからの一言によって、そのことが真実だ―――と、受け止めることが出来たのです。〕
カ:大統領特別補佐官―――ヴァイス・・・
そうか・・・あいつが元々の・・・
女:彼一人の責任にするわけではないけれども、彼の企てたことに気付かなかったのは、私が犯した罪・・・
カ:いえ―――! そうは云いますが・・・!!
女:いや・・・私のほうが短絡過ぎたんだ。
彼が私を謀(たばか)ったというのであれば、そのことに対しての罪を彼に償わせればよかった―――
なにも、その国に住んでいる、罪もない人たちまで巻き込むことなんてなかったんだ―――
〔その人は・・・あっさりと自分の過失を認めた―――
自分や、自分を取り巻く者達・・・とりわけ、自分の上司に当たる者などは、
過失などが取り沙汰されても、何喰わぬ顔で認めようなどとはせずに、のらりくらりと躱(かわ)すだけ―――・・・
それを・・・そんな煩わしいことは一切せずに、悪いことは悪かった―――と、潔く頭を下げた・・・
そして、このときになって、ようやく祖国が滅んだ原因が露見してきた・・・
大統領特別補佐官―――ヴァイス・・・
ヤツが、世界で一番偉い男を補佐している・・・そのこと自体、カレンには不思議でならなかったのです。
それというのも―――ヴァイスの周囲(まわ)りに立ち上る黒い噂・・・
一部では、過去にマフィアの特別顧問に就いていた時期すらある―――と、されていた男が、
いきなり自分たちの上司に・・・??
その手腕は強引―――その手段は横暴―――
現大統領の在任中には、可決は無理だとしていた法案の数々を無理やり通してきた・・・
彼に反発する者や、気にそぐわない者は、裏から手を回して人知れず排除してきた・・・
無論、それは大衆報道がなされるでもなく、
もしそうなったとしても、自分とは無関係である―――という工作までもめぐらせて・・・
カレンは、国家の機密情報を扱う機関に所属していた立場から、そんな“裏情報”は総て把握していました・・・
なんて悪辣なことを―――と、ココロでは云いながらも、口にまで出さなかったのは、
もしそのことが知れると、自分に危害が及ぶのが怖かったから―――・・・
私も・・・ヴァイスのことは、何一つ批判できない・・・
私は・・・そういう立場にあったとしても、留めにすら入らなかった・・・
同じ穴の狢(むじな)―――だったのだから・・・
しかし、この人は違う―――自らが悪いとしたところは、悪いと認め・・・
今回の元凶となった者でさえも、庇いまでして・・・
違う――― 一番悪いのは、やはりヴァイスのヤツで、それを止めにすら入らなかったこの私・・・
何も知らないで、“祖国を滅ぼした”ことのみで、罪を償わせようとしたこの私―――・・・
それでは・・・これから私は、なにをするべきか――――・・・
迷っていた彼女の思考も、やがては一つにまとまりつつあるのでした。〕