≪四節;男女の抱擁≫
〔そのころ女禍は・・・立て続けに精神的に負荷がかかる出来事があったことから、極端に人に会わなくなっていました。
普段が人付き合いの良かっただけに、今回のことがよほどに堪(こた)えたのか・・・
それでこそのアベルのあの表現は的を得ており、文字通りここは“太陽の落ちた闇”のようなところとなってしまっていたのです。
そこへ―――・・・〕
―――・・・。
女:・・・誰―――今は誰とも会いたくないって・・・
ア:女禍さん―――オレ・・・じゃなくて、ボクです。
覚えていますか、以前あなたに大変お世話になった、アベルです―――
女:―――アベル?! ・・・ああ!アベル―――!!
ア:お姉さん・・・こんなにも弱弱しくなってしまって―――でも、オレが来たからにはもうこんな風にはさせないよ。
女:アベル―――・・・
ブ:(女禍―――)
〔誰が入ってきたのか―――と、訊いたのは、女禍が入り口に対し背中を向けていたからであり、
そのことを一目見て判ったアベルも、そっと女禍を背後から抱きしめてあげたのです。
すると・・・こんな不意なことをされても、今抱きしめている者が誰であるかを判ってしまった女禍は、
振り向き様に、アベルが抱きしめているよりも強く抱きしめたものだったのです。
それはまさに・・・互いの意思が疎通できている者同士の仕種―――
まるで・・・恋人同士とも取れなくもない、そんな仕種であったがために、同じ場にいたブリジットは少し困惑気味になってしまいました。
地球人の男と・・・異邦人の女の・・・淡い戀の物語―――
女性である異邦人は、そっと目を閉じ・・・まるで何かを待ち望んでいるかのようでした―――〕
―――ところが??―――
むにぃ〜―――
むにむにゅ〜
女:あ゛・・・あ゛の〜? アベル〜〜??
ア:ンフフフ・・・ほぉ〜うら、変な顔だぞぅ〜?
女:あ゛っ・・・ア゛ヴェルの・・・ヴァカあ〜〜!!
ぐぅ で パンチ〜☆
ブ:(少し・・)ほっ―――・・・
〔せっかく男女関係の初歩のいいムードになりかけていたところに、急にこの男はナニを思ったのか、
女禍の顔を引き伸ばしたり―――すぼめたりなどして雰囲気はブチ壊しに。
しかも、どうやら半分 その気 になっていた女禍も、誤魔化し茶化されたことに腹を立てたのか、
握り拳でアベルを力任せに殴りつけてしまったのです。〕