≪五節;お為ごかし≫
ア:あ〜痛ってて―――・・・いやぁ、いいモノをもらっちゃったな・・・
でも―――少しは気分が晴れただろ?
女:(む゛っすぅ〜)・・・もしかしてその手口―――
ア:ああ、その通り―――オレの師匠である女禍さんの大きいお姉さんから・・・さ。
女:はぁ〜あ・・・やれやれ―――ゴメン、痛かった? ちょっと感情に任せて思いっ切り殴りつけてしまったから・・・
ア:あっはは―――あの人の拳骨から比べてみれば、なでられたようなもんだよ。
〔しかしアベルは笑っていました―――
けれどもそれは、自分が不適当なことをしたために、受けるべき罰を甘んじて受けたから・・・ではなく、
ようやくこの女性の顔に、 表情 というものが戻ったから―――・・・
そのときまでは、表情は死んでいた―――それを、ものの見事に甦らせたアベルの手口・・・
この手口を、女禍は幼いころにぐずっていたところを、同じ手口で慰めてくれた大きい姉のそれだと、すぐに気がつきました。
少し揶揄(からか)うような仕種で、自分を怒らせ―――思わず手を出してしまったとき・・・
――ほぉ〜ら 泣いてたカラスが もう笑った――
そう云って機嫌を直させた大きい姉―――
そのことが判ってしまっただけに、女禍は少々むくれながらも、アベルに―――大きい姉に・・・感謝をするのでした。
それから程なくして機嫌を取り戻した女禍は―――・・・〕
女:―――ブリジット、すまなかったね・・・アベルが来なかったら、今頃はやつらの思うところになっていたところだったよ。
ブ:・・・いえ―――・・・
ア:それにしても・・・あともう一人―――ラゼッタは?
女:ああ・・・あの子もまた、私と同様に落ち込んでいるよ、ぜひとも君の手で慰めてあげて・・・
ア:ふぅ〜ん―――(ニヤソ)
ブ:(・・・また何か企んでいるな―――)
〔いつもどおりの晴れやかな表情を取り戻し、今までの不徳を詫びた女禍―――
でも“あと一人”の事をアベルが聞くと、そのもう一人も先ほどの自分のように悄気(しょげ)ているから元気付けてほしい・・・と、頼んだのです。
そうしたところ―――アベルにはなにやら思うところがあるらしく、これから悪戯(いたずら)を仕掛けようとする悪戯好きの小僧のように、
思わずも口元を歪(ゆが)めてしまったのです。〕