<第二十七章;宿敵―――相見(まみ)ゆるとき>

 

≪一節;アベルの警告≫

 

 

〔この惑星にて、他の誰よりも女禍に接触し、また助けられていた存在―――アベル=アドラレメクが来てからというものは、

女禍に久々に表情というものが戻り、以前と変わらぬ日々が続いたのです。

 

それに、最初の頃はアベルのことを鼻にもかけなかったブリジットもカレンも、

多くの博識を得ている彼のことを、次第に認めざるを得なくなってきたのです。

 

そのことを示すある事例に、経理担当であったブリジットが、

更なる資金調達をしようと<ヘッジファンド>なる物件に手を出そうとしたとき・・・〕

 

 

ア:ああ、そいつには手を出さないほうがいい―――

ブ:ほう、だがこのデビトファンドはここ数ヶ月その動静を見続けてきたが、信用における筋だと確信が持てる。

  それに―――過去の私の知り合いもこの物件に手を出していてな・・・

 

ア:―――だが、オレは警告しておいたぜ・・・

  それに、もし万が一女禍さんを悲しませる結果になったとしたら、例えご友人のあんたといえど・・・赦しはしないからな。

ブ:―――・・・。

 

 

〔上辺(うわべ)だけでは危険性のないものだと思われる、今、流行りの金融商品・・・ヘッジファンド―――

その商品を取り扱う金融企業も、ブリジット自身十年来付き合いのある銀行マンが経営に携わっていたこともあり、

そろそろ自分も―――と、思っていた矢先、アベルから安全性が疑わしいと警告されてしまったのです。

 

しかもアベルのその脅しにも似た警告に―――しかしブリジットもその類の警告に離れてはいたのですが・・・

どうもブリジット自身の内にも思うところがあったらしく、もうしばらく様子を見ていたところ―――・・・

 

―――ある日の、朝刊の一面を見ていたとき、数々の海外企業から資金運用を委託されていたそのファンドの取り扱い窓口が、

突然閉鎖し―――投資された額も企業サイドに返却されないまま、事実上の自己破産宣告・・・

その煽(あお)りを食らった企業サイドも、責任の追及をしようにも、そのファンドの窓口取り扱い担当者や責任者などが、

相次いで自殺や事故などにより落命していることを突き止め、いつの間にか真相は闇へ・・・

 

―――と、そんなことがあるのを知ったブリジットは、アベルの静止がなかったら自分たちも彼らと同じように泣き寝入りしていたところだ・・・と、

いわば虎口を脱していたことを察したのです。

 

 

またあるときには―――・・・〕

 

 

カ:・・・ふぅん―――君が『紅いジハド』の唯一の生き残り・・・アベルか。

ア:・・・ああ、そうだけど―――何か?

 

カ:いや―――なに、あのテロ組織を壊滅させたところと同じようなものだから、

  さぞかし私のことを不愉快に思っていると思っていたのだけれど・・・

ア:フッ・・・そう思っていたなら、とっくの前にそうしていただろうさ―――

  第一今は、オレたちは志を同じくする者達・・・だ、そういった心配をするのはナンセンスというものだね。

 

  それに―――・・・あんたもこの惑星を宙外(そと)から見たことがあるんだろう・・・

 

カ:ああ―――女禍に誘(いざな)われて見させてもらったよ・・・

ア:“小さい”―――“小さい”ものなんだよ、この惑星は・・・

  オレたちが戦ってきた理由も、あんたたちが強制させようとしていたことも・・・

  実際に大きなものを目の前にすると、意外に本当にちっぽけなものなのさ・・・

  オレが最初に地球を見たときには、そう感じたものだね・・・

 

 

〔小さくも美しく―――様々な言語や人種が犇(ひし)めきあい、百通りあれば百通りの意見や価値観があるように、

個別としての意識も思想も多種多様としてある・・・

 

だからこそ、今まで自分たちが張り合ってきた矜持や意地など、この広大な宇宙に比べれば小さなもの―――

そう・・・まるで地球上に散在しているちっぽけな小石並みに―――・・・

 

 

カレンも―――ブリジットも、大義で括ればアングロサクソン民族・・・

それはこの惑星にて大成してきた主流の民族であり、それ以外であるアベルにしてみれば憎むべきブルジョワそのものでもありました。

 

しかし―――それももはや過ぎ去りし昔の話し・・・

こんなコトやあんなコトで争いあっていた日々が、莫迦らしくなるほどの壮大なものを見せられたとき、

過去の蟠(わだかま)りは捨て去られたものだったのです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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