<二節;女禍の社交界デビュー>
〔それはそうと―――これはそんな出来事から少しばかり時間が経った頃のこと・・・
日頃の労を労(ねぎら)おうと、ブリジットが自分の知り合いでもある者が開くパーティーに女禍を誘おうとしていたのです。
ところが―――・・・〕
女:申し出はありがたいけれど・・・やはり私は行けないよ。
なぜ・・・って、他の皆たちが働いているときに、私が寛(くつろ)いでいては悪いだろう。
ブ:なるほど・・・そういう考え方もありますか―――
では、こうではどうでしょう―――これから私たちは、新たなる顧客層を求めるために社交の場へと出てみるのです。
まあ確かに・・・海千山千―――信じるに足らない者達のほうが多いでしょうが、
私やカレン・・・アベルのような理解力のある人間たちもその場に来ているかもしれないのです。
現在、この惑星が置かれている状況は厳しくもありますが、この惑星を憂う者達も少なからずいると思うのです。
〔職員たちが働いている間に、自分たちだけが楽をしようというのは、女禍の頭の中にはありませんでした。
だからこそブリジットからの誘いを丁重に断ったのですが、ブリジットも新たな切り口―――
こういった人付き合いも仕事の一つであることを説いたのです。
すると最初は腰の低かった女禍も、“ならば―――”ということで、ブリジットのお誘いに乗ることにしたのです。
しかし―――・・・それは単なる偶然だったのか、果てまたは“宿”なる因果の下に組まれていたことだったのか・・・
到底知る余地すらなかったことだったのです。
―――ともあれ、その日は女禍自身も半日職場から手が離れてしまうことから、他の職員全員にも半日で仕事を切り上げるよう伝え、
女禍も、ブリジットのコーディネイトの下に淑女の仲間入りを果たし、パーティ会場入りをしたのでした。〕
女:うわ・・・皆、豪華なドレスに身を包んでいるなぁ―――
なんだか私自身がみすぼらしく見えてくるよ・・・
ブ:何を云っているのです―――そんな謙遜をしても、周囲(まわ)りはそうは見てくれませんよ。
女:ブリジット―――そう云う君も豪華だなぁ・・・
ブ:ハハハ―――まあ、昔とったなんとやら〜ですかな・・・。
今ではもう見る影さえもありはしませんが・・・なにしろ忌み名のほうが先に通ってしまって、皆私を避けていく・・・
女:君の―――忌み名?
ブ:・・・『鉄の女二世』―――このニックネームほど、私に相応しく、また重石にのしかかるものはありません。
“善き”にしろ、“悪しき”にしろ・・・ね。
女:―――そういえば、先ほど君に挨拶された御仁も、どこか脅えていたようだったね・・・
ブ:それはそうでしょう―――この忌み名は、政治的な影響力を及ぼせる者にして近寄りがたい女性の代名詞のようなものですから・・・。
女:あっ―――それは気に障るようなことじゃないのか? ゴメン・・・気がつかなくて―――
ブ:いえいえ―――気にされることではないのですよ。
そこは私自身の口から云っていることでもありますから・・・『私に相応しい』―――と、ね。
〔元々、『鉄の女』とは、ブリジットの大叔母に当たる元・英国首相の仇名―――
その国の女王陛下と生年月日を同じくし、同じ人間ながらこうも貧富の差があっていいものなのか―――と、その国の禁忌でもある王室のバッシングを行い、
向こうに回して相手をしたときにでも、広言憚らなかった度胸のよさ―――加えて、自分がこうだと思ったことを貫く姿勢も宛(さなが)らにして、
国内外を問わずつけられた、いうなれば勲章のようなものでもあったのです。
それに、ブリジット自身も、その女性首相の血を引く者―――つまりは直系の血筋ではないことから、隔世遺伝とも思われるのですが・・・
彼女自身がその忌み名を否定したがらないところを見ると、気には入っているようでもあるのです。〕