<三節;引き寄せあう者達>
〔それにしても―――当初女禍は、こういった類の行事には消極的なようでしたが・・・
実は、なにやら言い知れない不安感のようなものを、薄々ながら感じていた―――と、するならば・・・?
その元凶とも云える者が、同じパーティ会場に姿を見せていたとする―――ならば・・・??〕
ヱ:・・・フン―――なんともお粗末な催しではありませぬか。
あたら退屈していたとはいえ、これでは欲求が不満してしまいそう・・・
ビ:―――ですがヱニグマ様・・・権力の亡者共が、このように場に一堂に会するというのも、満更(まんざら)・・・とは思いませんか。
ン・フフフ―――・・・
ヱ:―――まあよい・・・それよりも、トロツキーとやら、わたくしを皆にご案内しなさい。
ト:ははっ―――かしこまりました・・・
〔狙った獲物は、骨の髄までしゃぶりつくすという―――ブラックウィドウ・・・
その実質的なトップとNO,2―――そしてこの女性の魅力の虜と成り果てた『第二ヤルタ会』の一員である、ロシア代表のトロツキー・・・
その彼らが、何の気紛(きまぐ)れからか突如としてこのパーティ会場に現れたというのも、陰惨なる簒奪・略奪を目論んでいたのはすぐにでも判ることでした。
そんな彼らと―――女禍・ブリジットが同じ会場に一緒にいる・・・
この集団の危険性を指摘し、これまでにも避けてきたブリジットも―――飛び入りできた彼らから、女禍を守り抜くことが出来るのでしょうか・・・。
しかも、女禍とヱニグマ―――彼女たちのみが持つある特性・・・
実は、この特性はこの当時には明らかとされるものではなかったのですが・・・
それでなくとも彼女たち同士は引き合った―――
そう・・・磁石のS極とN極とが引き合う―――引き寄せる・・・が、如くに。
そこで彼女たちは、互いの素性を知らぬままに、劇的な出会いをしてしまうのです。
それは・・・ちょっとした油断―――
ブリジットが、化粧直しに―――と、女禍の側を離れた・・・そんな瞬間(とき)でした。
離れたブリジットと入れ替わるように、黒いフォーマルなドレスを身に纏った雅やかな女性・・・が、女禍に近づいてきたのです。〕
謎:―――こんばんは・・・
女:・・・ああ―――こんばんは・・・
謎:愉しんでいらっしゃいますか。
女:え・・・ええ―――まあ、ほどほどに・・・
〔女禍は、その謎の女性から声をかけられ、そちらを振り向きました。
するとすぐに眼に飛び込んできたのは、黒い服ながらも“喪”の服ではない―――かと云って、フォーマルなものを身に纏っていた・・・
女性である女禍でさえも見とれてしまいそうな容貌の持ち主―――・・・
少し・・・危険な香りのする―――女性・・・
そんな人物が、この会場内では見劣りがちだった女禍の下に近づいてきたのです。
そして―――・・・〕
謎:そうですか・・・。
わたくしはどちらかと云いますと、少し物足りなさを感じているのです。
・・・実を云いますとね、ここ最近ヒマをもてあまし気味でしたので、そこでわたくしの部下から気晴らしに出てはどうか・・・と、促されまして―――
けれど、またいつものようにどこかの国のお偉方や、大企業の社長・代表たちに媚び諂(へつら)うのか―――と、反論してやりましたら、
だったら今回は飛び入りでどうですか―――と云われて、そこで仕方がなく・・・
でも―――そうすると、やはり何の目的もないものですから、すぐに手持ち無沙汰になってしまいまして・・・
そんな中、わたくしと同じようにこのパーティーに退屈をお感じになられているあなたを見つけまして・・・
女:ああ、判ってしまいますか―――
実は・・・私のほうでも、部下・・・とまでは行かないけれど、行動を共にしている友人に促されるがままに出席したものですから・・・
それに、あたら人前に出ることに慣れていないもので、それで戸惑いを感じちゃって―――
そこへ行くとあなたは場慣れしているようですね。
〔彼女たちは―――お互いが数奇な運命の糸で結ばれていることなど、思っても見なかったことでしょう・・・
それは、今のお互いの会話の中にも裏打ちされていたことであり、そのままでいればどことなくいい関係を構築できたのかもしれない・・・
けれども―――・・・
お互いがどんな運命の下にいるのか―――・・・
そのことは、以前にもこの謎の女性にあったことのあるブリジットが用を済ませて戻ってきたことから、知れてくることになったのです。〕