≪二節;魅惑の術(すべ)≫
〔ところ変わって―――極北の国、ロシアはサンクトペテルブルグに本拠を構える、ブラックウィドウ・ヱニグマは・・・〕
ヱ:今回のあの催し―――あまりの退屈さゆえに、もう少しで狂いそうでしたが・・・
中々どうして―――おかげで堕落させ甲斐のある獲物に巡り遇うことが出来、とても満足に思いますよ。
時に・・・トロツキーとやら、あなたのお仲間―――サウザーにギュスターブ、ルドルフとは・・・そちらの方々なのですね。
ト:その通りでございます―――
ヱ:ウフフ・・・皆の者―――こちらへ来て給れ。
わたくしの足元に跪き、永久(とこしえ)の愛と忠誠をここで誓うのです。
サ:お―――おいトロツキー、これは一体どういうことなんだ・・
ギ:そうだとも―――我々も急にこんなところに連れられてきて、何のことやら・・・
ル:そ・・・それに〜〜ワシらに額付(ぬかづ)けだとおぅ?! ふざけとるのじゃあないのか―――
ト:・・・これ、何をしているのだ―――早く盟主様に宣誓を・・・
〔確かに、ここ最近では実入りの話はなく、例のパーティーに出席したところで退屈しのぎにもならない・・・とはしていたのですが。
思わずも遇った女禍という存在に、その女は興味を抱いたのです。
“一目会ったその日から”―――とは、よく異性同士の間ではプロポーズをする際に頻繁に使われる言葉・・・
けれどそのときその女は、女禍に対し何かよからぬ“想い”を抱き始め、彼女を堕落せしめんとすることで至上の悦びに浸ろうとしていたのです。
それに・・・トロツキーの案内で、例のパーティーに来ていた『第二ヤルタ会』の面々・・・
その顔ぶれが、またもやトロツキーの計らいによりヱニグマの前に引き出されていたことは、すぐに憤懣の色になって現れていました。
今まで、“世界は自分たちを中心にして動いている”と思っていた者達にとって、一人の女の前で傅(かしず)き跪(ひざまず)かされるのはこの上ない屈辱であり、
その女のコトを傲慢である―――と、捉えるには易いものでした。
しかし・・・そういうトロツキーも、彼らと同じ穴の狢同士―――
いや、自身が偉大な男であると、そこにいた『第二ヤルタ会』の面々の誰よりも自負して已(や)まない人間・・・
そんな人間が、ヱニグマの前では至極恭順な態度・・・とは―――
もうすでに、彼・・・トロツキーは、女の毒牙にかかっていた―――ということは、云うまでもなかったことでしょう・・・。
―――とは云え、他の顔ぶれにしてみれば、そんなことは露ほども知らないので、程度の反発をして見せるだけなのです。
すると―――・・・〕
ヱ:フフフ・・・かまいません―――トロツキー。
彼らは、今はただ、駄々をこねているだけ・・・なんとも可愛らしいものではございませんか。
ト:し、しかし―――・・・
ヱ:さぁ・・・お前たち―――ゆっくりと・・・わたくしだけを見つめるのです。
何が見えます・・・―――お前たちの、その双眸には・・・
〔熟成された―――赤ワインのような真紅の眸・・・
その瞳で見つめられた 男 という生き物は、脳の中がとろけそうになり・・・おそらくその者達の眸には―――
一様にして女の猥らな裸の姿しか映っていなかった・・・
しかも―――女の誘う笑みも、またそれに倣うかのようであり、男たちの警戒心を解いていった・・・
そして我慢が出来なくなった男たちは、一斉に女の軆に群がり・・・悦楽の―――堕淫の限りを尽くすのです・・・
けれど・・・それこそは幻―――強力な女の催淫であり、それによって男という生き物を擒(とりこ)としてしまう術・・・
そしてそれは―――そこにいた三人もの男が、女の前に屈した姿・・・でもあったのです。〕