<第三十章;見つめる先にあるもの>
≪一節;消息確認情報≫
〔あれからしばらく時間が経ち、ようやくアベルの消息を掴みかけたとき、彼の現況がどのようになっているのか知ることができた女禍は・・・〕
女:―――なんだって? イタリアのヴェネツィアという場所で、アベルとあのヱニグマという女性が一緒にいるのを見たって云う情報が?
カ:はい・・・飲食店のウエイターをしていた人物がはっきりと覚えていまして、詳細まで話してくれました。
〔元・某超大国のエージェントであったカレンがそのノウハウを生かし、
アベルが失踪当時どこにいたのか・・・そして誰に会っていたのか―――を特定しました。
けれどそれはあまり思わしくない方向・・・“どこで”という場所は指して問題にはなりませんでしたが、
そこで会っていた“誰か”・・・それが件のパーティで出会ったことのある、油断のならない人物・・・ヱニグマ―――
その彼女と、アベルが密会をしていた―――?
そんな、浮気とも取れなくもないアベルの行動を、果たして女禍は・・・〕
女:―――うん? 突如として二人ともいなくなった?
カ:そういう捉え方は妥当ではないと思います。
ただ―――そのウエイターが、彼らが店に入ってきたときにはどことなく親しげだったのに・・・話が進むに連れ、雰囲気がどうも―――
そして、瞬(まばた)きをした次の瞬間―――・・・
ブ:―――二人ともいなくなった・・・まるで今流行のイリュージョンだ、な。
女:・・・・なるほど、つまり―――その証言では、少なくともアベルがあの女性に対して好意を抱いていたわけではなさそうだな。
カ:どうしてそんなことが云えるのです。
女:考えても見てごらん―――彼は、アベルはガラティア姉さんの直弟子でもあるんだ。
だから当然、ヱニグマのことは知っているんだろうと思う。
そこで私たちに配慮して、たった一人であの存在に立ち向かった・・・
ブ:それではまるでRPGの主人公ですな―――
女:ブリジット・・・
ブ:あなたの気持ちはわかります―――けれどアベルの行動は、明らかにチームプレーを逸脱している。
強大・強力な相手には、複数をして臨むのはもはやどこの世界でもセオリーのようなものだ。
事実、二度の“世界大戦”にしても、あの“湾岸”でも、諸外国同志が手を結び敵国を排除してきた。
これは曲げられようもない史実なのです。
確かに、たった一人の“女性”―――と、云うのは気が引けるかもしれませんが、あちらも頭数は揃えてきている・・・
もう、いつ全面衝突をしてもおかしくはない状況になってきているのです。
〔その当時あったことを詳しくカレンから聞いた女禍は、アベルがなそうとしていたことを理解し始めてきたのでした。
そう・・・彼は―――彼自身が愛する者のために、たった一人で強大な敵に立ち向かおうとしていた・・・
しかし、それはあまりにも無謀な行為でした―――
喩えアベルが、グランド・マイスターのハイ・ディスクリプトレベルだとは云えども、
所詮スタンドプレーでは、ヱニグマ率いるブラックウィドウの敵ではなかった・・・
―――だとすれば・・・
そこでようやく女禍は、アベルが窮地に追い込まれていることを知ったのです。〕