≪二節;運命ではない出来事≫
〔こうして―――姉に慰められ、気を取り戻した女禍は自分の部屋へと戻ると・・・〕
女:―――あっ、いない・・・
そうか・・・私が彼女の忠告を聞かなかったから・・・
〔そしてまた一人―――自分に“その場所には行ってはならない”と忠告してくれた友人が立ち去っていました。
元はトロイメア城の所有者であり、とある経緯で一番の理解者となってくれた最初の地球人・・・ブリジット=サー・アルフォンヌ=ランカスター
その彼女が、たった一葉の置手紙を残して、ここから去っていたのです。
それにその手紙には、あたら皮肉めいた言葉が―――・・・〕
女:―――“No Fate”・・・運命ではない・・・
今の私には、ぴったりだな・・・
〔その手紙には、たった一言―――“No Fate”とだけ記されていました。
“運命ではない”・・・友の忠告を無視し、リヴァイアサンに向かったことを諌めるかのような一言が字体にも現れていたことに、
女禍はまたも項垂れてしまいました・・・
けれども、もう女禍は涕しませんでした。
それは、姉の最後の一言で、今自分に課せられているのは“試練”だと割り切れたから・・・。
では、女禍を立ち直らせたジィルガの一言とは―――〕
ジ:それと・・・もう一つには、あのアベルという子は、未だ存在しているのじゃないかしら・・・
―――だって、考えて御覧なさい、存在の分割化と一口に云うけれど、
あのマッドサイエンティストが自分が満足いく成果を得るため、一体どれだけの年月を費やしたと思っているの、
彼がその研究を始めてからおよそ1000年―――そんな大研究を、喩え奪ったとは云えウィドウたちがモノにできたと思う?
確かに―――そこにお姉さまが関与していたら判らないけど・・・事実としてそれは有り得ない。
だから私が思うに、アベルという子は何らかの理由・手立てで存在し続けているに違いない・・・
けれどあの女は、いかにもアベルが消滅したかのような物の云い方をした・・・
それはね、女禍―――あなたを諦めさせるためのあの女の謀略なのよ。
どうしてそんなことが云えるのか・・・では、アベルが消滅して得をするのは誰? ―――いないでしょう?
だったら、いなくなったことにしてもらわないと・・・
女:―――そうか! まだ存在しているのに、消滅したという情報を流してしまえば、存在を握っている彼らのほうが有利・・・
アベルの消息を知りたい私たちにしてみれば、そのことを信じざるをえない・・・
―――と、云うことは・・・
〔そう・・・総ては騙りでした―――それだけにヱニグマの話術は卓越していたと云え、女禍も寸でのところで騙りに落ちようとしていたのです。
では、ジィルガはどうしてヱニグマが騙りを行った―――と、判断したのか・・・
実は、ジィルガには見えていたのです。
アベルの分身であるサウロンから出ている管のようなものを・・・
それをジィルガはアベルに繋がっていると判断し、アベルとの情報交換をしているものと推察したのです。
だとしたら、なぜ女禍にはそのことが見破れなかったか・・・
つまり、女禍はアベルを助け出すことしか頭にはなく、周囲(まわ)りと云うものが見えなくなっていた―――
しかも、今回のことがヱニグマの謀略だとするのに、このとき女禍が訪れることが判っておきながら、三傑を引き戻さなかった―――
ノーブルエルフであり、執行官でもある女禍がリヴァイアサンに乗り込んできたにもかかわらず、
後世において女禍たちを非常に苦しめるあの三人が不在のときに、敢えて女禍を招き入れた―――と、云うことは、
もしかするとヱニグマは女禍を虜にしようとしていたのではないか―――・・・
それゆえに巧妙な騙りを行い、信念が揺らいだところで捕らえようとしたのではないか―――・・・
ジィルガは、即座にそこまで推察したのです。〕