≪三節;“彼女”の二つ名≫
〔そんな―――手厳しいことを言ってのけたブリジットがその場を去ったところで、
彼女を揶揄しているともとられるこんな言葉が―――・・・〕
ト:ヤレヤレ―――あの気性の強さは“あいつ”そのままだな。
サ:ああ―――『鉄の女』ですか・・・
あの女の系譜にまだあんなのがいたとは・・・
ギ:ですが・・・女手一つではどうにもなりますまい―――
我等と行動をともにすれば、旨みも出てこようモノなのに―――・・・
ル:全くだ―――所詮、先行きの見えん女如きが・・・
〔そう―――彼らはそこで、ブリジットの事を『鉄の女』のようだと云ったのです。
『鉄の女』とは―――ブリジットの故国である英で、1979年に同国初の女性首相に選ばれた・・・
――― マーガレット=サッチャー ―――その人であり、
やはり当時をしての斬新な改革案―――“女性優位”を説き、また実践してきた・・・
それゆえの蔑称であり、また同時に賞賛の言葉でもあったのです。
では、それに准(なぞら)えられたブリジットは―――?
何を隠そう・・・彼女こそ、『鉄の女』の姪っ子であり―――“血”を・・・その遣り様を直に受け継ぐ者だったのです。
そんな彼女も―――今は、宿舎までの帰りの車中・・・〕
ブ:――――ふう・・・。
執:・・・お嬢様―――いかがなされたので。
ブ:・・・ああ、セバスチャン―――
いや、なに・・・今回の会合は実入りではなかった―――ただ、それだけのことだ。
セ:(セバスチャン;男;ブリジットの執事)
―――はあ・・・でしたら、まだお時間の方も早いですし、別荘であるあのお城に寄ってみてはいかがでしようか。
ブ:別荘―――か・・・そうだな、上手い具合に買い手が見つかってくれれば良いのだが・・・
セ:(フフフ――)実は―――今日、一名様ほどあの城を気に入られて、
買い取りたいから、是非とも持ち主に会わせてくれないか―――とのご連絡が御座いまして・・・。
ブ:―――ナニ? では・・・そのお客人は・・・
セ:ああ―――今日は大事な会合に出席中です・・・と、申し上げましたら、
それは残念―――また来るよ・・・と。
ブ:なんだ・・・そうか―――勿体のない事をしたな。
セ:ああ、そうそう―――代わりにその方の連絡先を承っておりますので・・・
後部座席のダッシュボードにそれがございます。
ブ:ふぅむ―――どれ・・・(ガサゴソ)・・・なるほど、この番号か―――