≪四節;不敵なる女の影≫
〔戦に勝ち―――例え一時(いっとき)とは云えども、この国に安寧をもたらしたこの国の兵士たち・・・
そして彼ら自身も、「休息」という寝床に身を埋(うず)めるのです・・・。
―――時に・・・そんな奇妙な出来事は起こったのです。
録尚書事であり、最高軍事顧問である「大将軍」を妻に持ち、自身も尚書台の一員として、政務を見るのに多忙な日々を送るタケル・・・
その彼が―――その日一日の書類に眼を通し、須らく決済をし終えたときには、もう既に夜は更けつつありました・・・。
そういうこともあり、今夜はこのまま城内にある宿直の部屋に寝泊りすることを、愛妻である婀陀那に連絡を入れた後・・・
それは、そんな後に起こった出来事だったのです―――
その日一日の疲れを流し終え、これから寝床へと入ろうとしたとき、
部屋の隅で仄かに光る「発光体」と思(おぼ)しきモノを感じたタケルは―――・・・〕
タ:(うん・・・?)
・・・何者だ、そこにいるのは―――
誰:――――・・・・。
タ:(この姿・・・女―――?)
面(おもて)を上げよ・・・ナニ用でここに参ったのだ―――
誰:――――・・・。
タ:(!!?)あ・・・あなた様は―――?!!
〔最初は―――項垂(うなだ)れて顔がよく判らなかったものの、今そこにある存在というのは、
身には何も纏ってはいない、裸同然の女―――の、様にも見えたものでした・・・
しかし―――その存在が、タケルに促されるがままに、垂れていた頭をあげた、そのとき―――
タケルは思わずも息を呑んでしまったのです・・・
そう・・・その仄かに光る裸の女のような発光体こそは・・・
現・パライソ国女皇であり―――タケルが長年主として慕い、付き添ってきたアヱカそのものなのでした・・・
けれども―――・・・〕
タ:あ・・・アヱカ様―――い、一体ナニを・・・
ア:―――タケル様・・・タケル・・・
このわたくしの―――この想い・・・
どうか―――・・・
タ:な・・・ナニを――― 一体どうなされたというのですか!!?
眼をお覚まし下さい―――!!
ア:―――あなたこそ・・・なにをおっしゃっているのです・・・
わたくしの、この想いなど・・・当に判っておりますのでしょうに―――
タ:アヱカ・・・様―――
ア:―――・・・それとも、これ以上与えることに疲れ、与えられることを望み始めたこのわたくしを・・・
さもしい女―――と、そう感じているのでしょうか・・・
タ:――――・・・・。
ア:―――タケル様・・・わたくしだけのタケル・・・
どうして返事をしてくれないのです―――
やはり・・・わたくしよりあの方のことを―――
〔紛れもなく、その発光体はアヱカそのものでした―――・・・
けれども、その言葉の端々は、どう捉えても本来の彼女らしからぬものばかりであり、
しかし―――タケルの方でも気付いていた・・・いや、気付いていたからこそ、気付かぬ振りをしていたのです。
ただ、自分の能力が近隣諸国にまで鳴り響いていたから―――・・・
いや、しかし、そこで五度も居住まいを訪ねたりするものなのだろうか―――・・・
無理だとも思えた自分の献策を、須らく取り上げてもらい―――
ご寵愛第一なのでは―――と、他の官たちから羨ましがられたときにも、アヱカ自身が非難の矢面に立ち、それを退けてくれた―――・・・
それは・・・・・タケルという存在自体を、主従の枠組みを越えた―――
いわば、異性のそれとして捉えていたからではなかったか―――
そんなことが、彼の脳裏を過(よ)ぎるのですが―――・・・〕