<第十章;山の真の姿を知る者>
≪一節;厳しい言葉≫
〔その場での―――キリエの一言・・・「死ぬ覚悟はできているか」の弁(ことば)は、少し大仰なものではないか・・・と、誰しもが思いもしましたが、
ですが、あの山脈の畏ろしさを身に沁みて判っていた者達には、もう二度とあんな眼には遭いたくないとはしながらも、
辛い事実である故郷での悲劇を見せられたため、急いで母国まで戻らなければならない―――と、云う使命感から焦っていたのです。
だから・・・当然その場の返答でも―――〕
ユ:この命・・・すでに一度は捨てている――― 一度死んでいるという事は、二度死ぬことも同じこと・・・
是非ともあなたの持つ技術を教授賜りたい―――!
キ:(ユミエさん・・・)その眼に偽りはないようね―――それに山の恐さ・・・見たところ半分は理解しているようだし・・・
いいでしょう―――その覚悟があるのならば、あなた達に授けてあげるわ。
ル:ほ―――本当ですか?!
キ:ええ―――でも、二度同じ結果になるとは思わないで。
それでは、準備期間にひと月半ほど要しますが・・・
ヱ:―――いいだろう、ゾハルの五合目より上の階層の封を解こう。
ナ:え・・・っ?! あの、これから何を―――それに、ひと月半・・・だなんて。
あたしたちはすぐにでも―――・・・
キ:そう云う甘い考えだから早死にをしてしまうのよ!
ナオミさん・・・あなたは山の本当の姿を知っているの? 天高く聳(そび)える山ほど壮観だけれど・・・そう云う処こそ、生命を欲するのよ―――
レクリエーション的な感覚で山を登ろうとする者を、山は的確に見抜き・・・そして容赦なく―――確実に奪い去っていく・・・
あなた達も見たんじゃないの? あなた達の仲間が―――容赦なく山に奪われていく・・・その瞬間(さま)を!!
〔この人は・・・知っている―――山の、あの性酷薄なる・・・無慈悲な姿を。
この山を越えていけばいいだけ―――ただそれだけだ・・・と、思っていた自分たちを、
山は見透かし―――そして容赦なく襲いかかってきた・・・
或る者は、身を切られるような寒さの中で・・・次第に意識を失って行き―――まるで眠るかのようにして息絶えて逝った・・・
或る者は、急に気が狂ったようになり、正常な動作をしないで逝ってしまった―――・・・
他にも、裂け目に足を取られて滑落死する者や、雪崩に巻き込まれて行方の分からなくなった者・・・
それに、彼女たちの故郷の・・・やはり魔の山脈近くの住人には、ある伝承が伝わっていたのです。
山には神が存在するという―――人間の・・・いや、生命を欲する荒神が・・・
そしてこの伝承は、実感した者達の身が知る、事実でもあったのです。
それにキリエは、こうも真顔で―――焦り逸るナオミ達を叱咤した・・・
キリエもまた―――ナオミやユミエと同じ・・・それ以上の多くの哀しみを―――仲間たちを奪い去られゆく刹那(さま)を目の当たりにしてきたのだろう。
そう感じるのです。〕