≪二節;ゾハル山攻略≫

 

 

〔それから数時間後―――ナオミ達は、自分たちがヴァーナム山脈を越えてきた各自の装備で、予(あらかじ)め集合場所に指定された中央広場に集まったところ、

キリエは、彼女たちの登山装備を見て絶句をしてしまったのです。〕

 

 

キ:あなたたち―――そんな装備であそこを越えてきたというの?

 

マ:そぉ〜は云ってもぉ〜〜これがあたしたちの、お山に登るときの標準装備だにょ?

  そゆ、キリエ隊長こそ大袈裟なんでないの?w

 

キ:(これは・・・扱(しご)き甲斐がありそうと云うか―――よくこんなので越えられたというか・・・奇蹟ね。)

  ―――ま・・・いいっか、装備の方はあとあとでどうにかなるとして〜〜・・・問題は心構え一つだからね。

 

 

〔最速最短期間で、難所の多い山脈を攻める・・・に、しても、軽すぎる装備―――だと、一目見たときにキリエはそう感じました。

 

確かに―――食料などの物資は多いに越したことはないが、多ければ多いほどゴミは出やすくなるもの。

それによって山の美観も損なわれ、山の荒神はさらなる過酷な試練を登山者たちに課してくる・・・

そのことを考慮した上で、必要最低限までに絞ったのがキリエの装備だったのですが、

それでもマグレブの民たちであるナオミ達の標準装備は、キリエ自身の知る通常のアルパインでは及びもつかないほどの軽装備だったのです。

 

 

それはそうと―――これからの当面の目標とは・・・〕

 

 

キ:これから私たちは―――「お山」と呼ばれているゾハル山を攻略します。

  期間は・・・そうね、一ヶ月間をかけて―――

ル:い――― 一ヶ月間も? そんなにかかるのですか・・・?

 

キ:そうよ―――本音を云ってしまえば、もっとじっくりと時間をかけて・・・凡(おおよ)そ4・5ヵ月はかけて、高山病になり難(にく)い身体に仕上げていきたいのだけれど・・・

  あなた達の様子を見ていれば焦っているのは目に見えていることだし、そこで少々過酷だけれども本来のベースキャンプ地より少し高所に、

  今回のベースキャンプを張ろうと思っているの。

 

シ:高山病―――・・・あれは、思い出しただけでも身の毛が弥立(よだ)ちます。

  平地や、少し高いと思われたところでも平然としていた人が・・・急に7,000を越えた辺りから「眩暈(めまい)」や「吐き気」を催し出して―――

  それから・・・それからです、急に気が狂ったようになって―――目の前が崖だったにもかかわらず、そちらに向かって走り出して・・・

 

キ:それは・・・急性の高山病ね、身体を慣らさずに急に高い処に登ったときに良く起こす症状だわ。

  それに―――目の前が崖でなくても、走ってしまったらその人はまづ助からない・・・

  なぜそんなことが云えるかと云うとね、圧倒的な高所―――7,000〜8,000では、平地での濃度より約三倍は酸素が薄いからよ。

  だからあなた達に一つ云っておくこと―――焦っているからと云って、高地では走るなどの激しい運動はしないこと・・・これは高山においての鉄則なのよ。

 

 

〔キリエは、熟達者ならではのあらゆる知識を兼ね備えていました。

そう・・・予(あらかじ)め、高地―――7,000以上の標高で高山病にならないようにする身体づくりをするために、時間を要しなければならないことを知っていたのです。

 

そのためにと選んだ訓練場所が、キリエの母であるヱリヤが棲み処としている―――ゾハル山・・・

かつてユミエとレイカの二人は、帝国の双璧であるヱリヤをパライソ国に迎え入れるため、この霊峰を訪れたことがあったのですが、

あの時はそのことが目的の一つであったがため、敢えて五合目より上の階層は目指さなかった・・・

けれども今回はそうではなく、15,000はある頂を征服するため―――それも一カ月と云う短期間のうちに済ませるために、

最低でも高所にて狂わないようにするため、本来ベースキャンプを張る地点よりさらに標高の高い位置での訓練が始められようとしていた・・・

キリエが背負っていたのは、そこへと運ぶ物資だったのです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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