≪四節;訓練光景―――その二≫
〔あれから―――さらに一週間が経ち、さらなる訓練の段階へと進んでいました・・・。〕
キ:(・・・よし、この辺でいいわね―――)
今日は、ここでビバークすることにするわ。
ル:(はぁ・・・はぁ・・・)こ―――ここは・・・?
キ:標高8,500―――どう、苦しい?
レ:(はぁ・・・はぁ・・・)は・・・い―――でも、どうして・・・
ユ:簡単なこと―――ここは・・・空気が薄い・・・
キ:(彼女は―――かなり慣れてきているわね・・・)
そう―――この標高差まで来ると、空気中に含まれる酸素濃度は地上の三割しかないわ・・・
それにゾハルはこの大陸で一番高い山であり、一番過酷な場所・・・
高所登山では、永年の経験と弛(たゆ)まぬ訓練が必要となるのよ、平地でどんなに鍛えても私と同じ身体になるのは不可能・・・
年中数1,000の高所で過ごし、最高の登山技術と経験を積み重ね―――身体を適応させて初めて、私と同じか近くになる。
つまりはここに住み着かない限り無理だと云う事―――・・・
ユ:(そうか・・・だからこの人はヴァーナム攻略を前にして、この山で訓練することを望んだ・・・
あの時の私たちは焦っていたから、こんな訓練をする間もなく魔の山脈を越えてしまった・・・
―――とは云え、無謀と云われても・・・越えなければならない時、この人ならどうするのだろう。)
〔高所登山において何より恐ろしいのは希薄な空気―――しかもそれが単独のものともなれば食糧と装備は限られてくる・・・
それに三割の酸素濃度しかない―――ともなれば、思考能力体力の両面に襲いかかってくる・・・
たった一人で高所登山に挑み、超人的な体力と技術を兼ね備え、さらに高所トレーニングを積んだ者にだけ可能な、その当時で最新式の登山技術―――
その技術こそ アルパインスタイル であり、キリエもこの技術を会得するのに艱難辛苦したものだったのです。
それにキリエは―――更なる高所登山での難しさ、恐ろしさと云うものをこう表現したのでした。〕
キ:昔ではね、これ位までの標高になってくると熟達者でさえも命を落としたと云うわ、
その時の生存確率は・・・凡(およ)そ七日―――
マ:えぇ〜っ?たったそんだけ?! ―――だとしたらあたしたち・・・
キ:けれどもね・・・このゾハルを踏破した人たちもいる―――ってことは?
シ:それは・・・訓練法も発達して、私たちもより柔軟に対処出来てきたからではないでしょうか。
キ:そうね、その通りよ・・・。
〔高所登山での生存確率が低いのはキリエも知っており、敢えてその数値をナオミ達に教えました。
それにこのゾハルが未踏ではなく踏破した者たちもいる・・・と、ナオミ達を勇気づけ励ましたりもしたのですが・・・
けれどもキリエは―――それから先のことを・・・かつて自分が所属していた登山隊が、下山途中で自分一人を残して全滅した・・・などと云う事は、
決して口にしたりはしなかったのです。〕