<第十一章;あの峰を越えて>
≪一節;越山の準備≫
〔この度のことを成し遂げるため、似たような環境を持つ場所と地域で一定期間の訓練を終えた、異郷出身者とその技術に秀でた者は、
ガルバディア大陸とその異郷とを分断するような象(かたち)で聳(そび)え立つヴァーナム山脈を攻略するため、
山脈への入り口であるトゥーヤー湖畔に集結していました。
焦りは禁物―――とは云っても、祖国が壊滅一歩手前の憂き目に晒されていることを知り、
それから一カ月余りが経っていることも思えば、彼女達が焦る処はどことなく判らないでもないのですが・・・〕
キ:それでは点呼を取ります―――ルリ・ナオミ・ユミエ・シズネ・レイカ・マキ・・・
マ:そ〜んなことより―――早く出発しちゃいましょうよう〜。
キ:ダメよ・・・出発前の点呼は大事なんですから―――
それよりも、各自・・・事前に私が伝えておいた装備は一式揃えているわね。
〔短い期間で高所を克服する方法―――「アルパインスタイル」・・・
この技術の唯一の継承者であるキリエにも、今回のヴァーナム攻略は一抹の不安は拭いきれませんでした。
優れた技術・・・とは云っても、それを習得したのは遥かな過去―――に、であり・・・
今までのお話しの遷移上、そんな趣味に興じる時間は皆無にも等しかったのです。
これを云い換えるなら、前回のゾハル攻略の時に関しても云えたことでもあるのですが・・・
全くの準備不足にも等しかった―――
身体造りや訓練もせず、いきなり世界の最高峰に挑む―――と、云うのは、些(いささ)か無謀であるとも云えたのです。
それになにより・・・キリエは自分の自信―――
「もしかすると、長い間してこなかったものだから、何か忘れていることがあるのかもしれない・・・」
けれど―――それは杞憂と云うモノでした。
急性高山病に凍傷への対処・・・更には雪崩への対処法など、高所にて生命の危険に関わる重要な事項に関しては、昨日修得したかのように流暢に対処できた・・・
しかし、これで慢心をしてはいけない―――更なる高所には、これとは比べ物にはならないほどの危険が潜んでいるのだから・・・〕