≪四節;最初の難関≫
〔ここの想いを胸に秘め、二日目を出発した彼女達―――・・・
けれど・・・彼女達を待ち受けていたのは―――
出発地点の7000m付近では、雲も少し多めでしたが晴れ間は覗いていました。
ところが・・・僅か500mも登らないうちに、雲の比率が増し始め・・・しかもどんよりとした暗い雲が、越山隊を阻み始めたのです。
それが―――山の魔性の一つ・・・「急な天候の変わり目」
予期しないうちに風が出てきた―――と、そう思い始めた矢先、その風はすでに降り積もっていた雪を巻き上げ・・・「吹雪」(ブリザード)に変化しようとしていました。
そのことを察知したキリエは、すぐに近くの岩場に隠れるよう伝え、吹雪が収まるまで身を潜めたのです。
幸い―――吹雪はすぐに去り退きましたが、彼女達を待ち受けていた最初の難関は、そんなに近い未来のことではなかったのです。
そのことはキリエよりもむしろ、彼女たの方が判っていた―――
何しろ近い過去・・・マグレヴからガルバディア側に来ようとした彼女達が、周囲(まわ)りの景色を見て少なからずの動揺を見せたのですから。〕
ユ:(どこかで見たことのある処だと思っていたら・・・ここはもしかすると―――!)
レ:この・・・場所は―――!
ル:カオリとノゾミが―――・・・
シ:そ―――そんな・・・っ!!
〔マグレヴからのルートで、恐らくは最後の難関とも云える場所・・・
この場所で実際に、ここまで彼女達を引っ張ってきたリーダー役の二人の人物が亡くなっていたのです。
極限まで削られた体力・・・加えて、散漫になりがちだった注意力・・・。
それに、この辺りの地理にも疎かったため、その場所がそうだったとは気付かなかったのです。
現在生き残っている六名の隊員達が無事渡り切ったのを見守った後、最後に二人が渡ろうとしていたその時―――
六名もの人間が歩いたことによる振動で脆くなっていたからか、突然足場が崩れてしまい、
それでも咄嗟の機転を利かせて、突き出た岩場に糸を絡ませて滑落を免れたものでしたが、
奈何(いかん)せん残された僅かばかりの体力では、這い上がることさえできないでいた・・・
それでも知己の二人を救うため―――と、ユミエが手を差し伸べるのですが・・・〕
ユ:カオリ―――早く・・・この手を!
カ:―――・・・
ユ:何をしている―――早くこの手を!!
カ:仕方が・・・ないよな、全く・・・
―――だよなあ、ノゾミ。
ノ:ああ・・・全くだ―――
〔彼女達には・・・覚悟が出来ていたのかもしれない―――
自分達の国でも「魔の山脈」と畏れられ、事実それまでにも数多くの仲間達を失った時、
もしかすると自分達の明日の運命も、前(さき)に逝く者達と同じ途(みち)を辿るかもしれない―――
そして、それが今回自分達の身に舞い降りてしまっただけ・・・
自分達が助かる為、残された者たちにこれ以上の負担をかけることはできない。
そのことを親友に打ち明け、親友もそのことを受け入れた―――・・・
カオリとノゾミは、ユミエが差し伸べた救いの手に触れることすらなく、自ら墜ちる道を選んだ・・・
「あいつらを頼む」―――と、後事を第二の親友に託し、二人の生命は・・・いつ果てるともない裂け目へと墜ち、
そこから二度と戻ってくることはなかったのです。
そんな彼女達の実体験は、貴重なモノだと思われたのですが・・・キリエは―――〕
キ:クレパス―――・・・それにここは、ヴァーナムに数あるモノの中では特に深いとされているわ。
だから私たちはここを「奈落の深淵」と呼んでいるの。
それに・・・そう―――あなた達の仲間も、この深淵に呑まれてしまったのね。
だけど感傷に浸っている余裕はないわ、急いで渡りましょう―――
〔「感傷に浸っている余裕はない」―――その言葉は、当時その場にいた者達にしてみれば乱暴に聞こえたモノでしたが、
後日になって思い起こすと、その言葉の正当性を感じたモノでした。
なにより、自分達が今いる地点は平坦な場所ではなく、標高・・・約8800m付近で―――酸素も希薄であり、徐々に体力が奪われて逝く場所・・・
そんな場所に留まることがいかに危険なのかを熟知していたキリエは、持っていた道具で簡易性の橋を掛け、全員無事に最初の難関を突破したのでした。〕