≪五節;キリエの焦り≫
〔しかし、彼女達が抱えていた精神的な負担や体力の消耗は予想していた以上に激しく、
あとのことを考えたキリエは付近に雪洞を掘り、そこで一時の小休止を取ることにしたのです。
ところが・・・次第に天候が荒れ始め、以前に遭った吹雪とは比べ物にならないほどの猛吹雪が彼女達の足を止め、時間的にも猶予を奪い去ってしまったのです。
しかも・・・まだ悪いことに―――〕
シ:う・・・うっ―――く、苦しい・・・
レ:シズネ? どうしたの・・・大丈夫?!
キ:落ち着いて―――騒がないように・・・騒げばそれだけ余計に酸素も体力も消耗してしまうわ。
それに・・・高山病の対処の仕方は教えたはずよね。
シ:あ・・・はい―――・・・
キ:それでは焦ることなく、各自ボンベを一本づつ空けましょう。
〔彼女達の一人、シズネが体の不調を訴え出した・・・けれどこれは高山病によるものと判断したキリエは、
迷うことすらなく装備の一つとした、各自持参の二本の酸素ボンベのうちの一本を空けて対処したのです。
これにより・・・比較的気分が落ち着いたルリ達ではありましたが、反面―――キリエの表情が曇りがちになっているのをユミエは見逃さなかったのです。〕
ユ:あの・・・キリエさん、何か不安なことでも―――?
キ:え? いえ・・・早く吹雪が収まらないか―――と・・・
ユ:確かに・・・これは当分収まりそうにないですね。
キ:・・・。
(どうしよう―――これでは予定を変更せざるを得ないわ。
最悪の場合、ルートの変更を―――あそこを通らなければならなくなるかもしれない・・・
けれど・・・今のこの人たちの技術力では―――・・・)
〔当初キリエが立てていた計画では、こう云った天候の変化による足止めも計算には入れてはいましたが、そう云ったものは人間如きの力でどうなるものでもありませんでした。
「早く収まればいい」―――と、云うのは、自分達人間の勝手な都合であり、自然現象が人間の手で御せられるものでもなかった証でもあったのです。
だからこそキリエは焦っていました。
多少なりともの付け焼刃とは云え、一ヶ月の訓練を積んできたけれど・・・
本格的なモノとは比較にならないほど簡易であったため、ルリ達の耐力にも不安が残っていたのです。
そこでキリエは、そんな不安が残る耐力を一つの基準とし、限界に近いと思われるルート選択をして挑んでいたわけなのですが・・・
ここへきての予測外の足止めに、キリエは一つの決断を迫られていたのです。
そう・・・ルリ達の限界を超える挑戦を、課すと云うことを―――・・・〕