≪六節;人智を超えた難所≫

 

 

〔4時間後・・・大幅な時間を失いながらも、再び彼女達は進み始めました。

しかし―――キリエは、本来予定としていたルートから大きく外れ、彼女達を未知なる領域に導き入れたのです。

 

しかもその未知なる領域は、今回の越山でも最大の難関だと思われました。

それというのも―――・・・〕

 

 

ナ:あ、あっ―――? そんな・・・道がない? これはどう云うことなんですか―――キリエさん!

レ:あるのは・・・「氷の壁」―――?

ユ:進路を・・・間違えた―――

 

 

〔その場所は、ルリ達にとっても未知の領域―――

そう・・・彼女達がガルバディアに向った時にでも、この場所は通過はしませんでした。

 

それに、見ても判るように・・・続いていた登山道が、この場所でぷつりと途絶えているのです。

しかも―――今ルリ達が目の前にしているのは、傾斜がほぼ垂直に近い・・・氷の壁。

 

こんな処に自分達を導いて、高山征服の先駆者は何をしようとしているのか・・・

路の莫い場所を、どうやって進むと云うのか・・・

 

けれどもキリエに云わせれば―――・・・〕

 

 

キ:路なら・・・あるわ―――この壁の向こうに・・・。

  ここを克服できれば、大幅な時間や距離の短縮につながるわ。

 

ル:けれども・・・ならばどうやって―――?!

 

 

〔路莫き路を・・・どうやって進む―――?!

希薄な酸素によって、思考も薄れてきていたマグレヴの民達にでも、一つのことは明確に判りました。

とは云え・・・素人同然の彼女達では、この時のキリエの行動がどうにも理解しがたく、ついに我慢しきれず声に出して訊いてしまうのです。

 

するとキリエは、その質問に敢えて答えようとはせず、徐(おもむろ)に準備を始め―――そのための道具一式をルリ達に配り始めると、信じ難い言葉を口にしたのです。〕

 

 

キ:ザイルとカラビナ―――それに専用の靴は行き渡ったわね。

 

マ:うわ・・・すっご―――つま先や踵・・・それに靴の底にも鋭い刃が〜

ユ:(まさか―――本気でこんな場所を?)

 

キ:それと後一つ・・・全員荷物をここで全部捨てて。

マ:え・・・っ―――ええ〜〜っ?? そ―――そんなあ〜〜そんなのないです〜〜って!!

  ここで今食べ物失ったら、これからあたしたちどーしろって・・・

 

 

〔その信じ難い言葉とは、自分達がここまで背負ってきた荷物の破棄―――

それには、彼女達の生命を繋ぐ水や食料などがあると云うのに・・・そんな大事なモノを今更どうして―――・・・

マキの云っていることは、珍しく的を衝いていたため、誰もがキリエの次の言葉を待っていました。

 

けれどもキリエは、その説明をする時間も惜しいと云ったように、こう説明したのです。〕

 

 

キ:そんなモノを背負ってここを通ると云うのは、自分から死にに逝くようなモノだわ。

  それにここは・・・ヴァーナムの三大難所として知られる―――「白竜の巣」

 

  私も本来なら、ここは通りたくなかったけれど―――そうならざるを得ない状況になってしまったのよ。

 

ユ:(!)もしかすると・・・先ほどの吹雪―――?!

 

キ:そう云うこと・・・アレがなければ本来のルートでも良かったんだけれど・・・

  貴重な時間を割かれた上に、距離も稼げなかったら―――水も食料も・・・酸素も尽きてきて、遅かれ早かれ全員がこの山の餌食となる。

 

  だから敢えて私は、恐らく今のあなた達では無理かもしれないけれど・・・私の出す指示に逐一従って貰い、この壁を越えて行く―――

  そうすれば、あなた達の国は・・・目と鼻の先に見えてくるはずよ。

 

 

〔それは最早決死行・・・無理を承知の上を押しての強行に踏み切らざるを得なかったキリエの心境は、いかばかりのモノがあったでしょうか・・・。

 

素人や初心者が、いきなり難易度Aクラスに挑むと云うのは、それこそまさに無謀の極致であり、

もしかすると一人くらいの犠牲は覚悟の上ではなかったか―――・・・そう思わざるを得ないのですが。

マグレヴの民達である彼女達は、もうこれ以上の犠牲は出せない・・・と、各自が肚に決めてかかっている上でのことだっただけに、

そこで驚異の粘りと云うモノを見せたのです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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