≪三節;温情≫
〔しかし―――・・・一方のこちら、ヱリヤとしては収まり処ではなく、納得のいかないままでこの案件が通過されようとしたので、
自身の内に云い知れ様のない不満が充ち溢れだしていたのです。〕
ヱ:(くそ・・・っ! どうして陛下は判ってくださらないのだ!!
はぐれ者とは云え、ゾズマは私と血を分けた弟―――しかも、あいつの持つグノーシス「クリスタル・ガイア」は、私のグノーシスと同じ程度の出力を持つと云うのに・・・
それが、この度成体化した我が娘が、どこまで敵うものか判ったものではないのに・・・!)
〔本音を云ってしまうと、すぐにでも飛んでマグレヴへと向かいたかった・・・
今の女皇は、「皇」ではないのだから、すぐに許可を得られるものだと思っていたのに―――結果は「様子見」・・・
どちらに正義かあるかなど、判り切っているはずなのに、今ここで手を拱(こまね)いていては手遅れになってしまう。
それでも、この女皇と云うお方は、皇以上に人道に基づき、善・悪を判断しようとしている・・・
ならば―――ここはやはり自分が・・・
そう思っていた矢先、不意にヱリヤの脳波にシンクロしてきた「声」が―――・・・
『ヱリヤ・・・もしあなたが、自分の血に連なる者を護り、彼方を裁くと云うのであれば、わたくしは止めはしません・・・』
『ですが―――これだけは覚えておいてください。』
『あなたの母なる方の、その同じ肚より生まれ―――同じ龍の血を引き継ぐ者・・・あなたの兄弟である方を、その手に掛けると云うのがどういうことであるのかを・・・。』
『もし・・・そのことで、業の焔に身を焦がせて悔い莫きならば―――』
その「声」は、紛れもなく女皇・アヱカのモノでした。
女皇は・・・何もかもを知っていた―――
自分が・・・お上より許可を得られずとも、マグレヴへ行こうとしていたことなど―――・・・
自分が・・・同族を、この手で血に染めようとしていたことなど―――・・・
その覚悟をして・・・事に臨もうとしていたことなど―――・・・
そのことを・・・自分の苦悩を理解していただき、陰ながらに許可をして下された女皇に、ほんの心ばかりのお礼を済ませると、足早にシャクラディアから出撃をしたモノだったのです。
但し―――この一部始終を、誰かに見られていたとしたら・・・〕
ガ:フフ・・・あんたもよくよく―――人を煽るのが巧いったら。
ア:・・・ですが―――彼女の一族を思う心は、あなた方に引けは取らないモノ・・・と、そう感じております。
それにこの一件・・・依然としてまだ不透明なままで、このわたくしも、かの大陸に足を運ばねば何とも云えないのですが・・・
ガ:ふぅん・・・ウィドウの残党―――か・・・可能性としては、なくはないかねぇ。
ア:自らの不始末・・・と、あれば、アレの元首領であったわたくしが出向かなければ筋は通りませんでしょう。
ガ:なんとも皮肉なことだこと―――元所属していた組織の不始末を、元首領が取ろう・・・って、なんざ―――ね。
〔女皇と死せる賢者の会話には、今まさにマグレヴを攻め滅ぼそうとしている勢力の核心を衝いていたと云えました。
一族よりはぐれた・・・とは云え、従属させるのに一方ならぬ苦労を強いられる種族を味方につけている―――
そう云った実力を鑑みても、ハイランダーに匹敵する実力の持ち主と云えば・・・「ブラック・ウィドウ」と呼ばれた組織の構成員の誰かが成し得たことだとされ、
そう云った者が例の大陸に根付こうとしているのでは・・・との疑問も浮上してきたのです。
そのことで、今一つ強い確信性を得るため、女皇自らも「元・ブラックウィドウ首領・ヱニグマ」としてかの地へと赴こうとしていたのです。〕