<第十四章;マルドゥク>
≪一節;出陣したものの・・・≫
〔パライソ女皇からの陰ながらの支援を取り付け、先遣隊として出向いている自分の娘がいる場所へ、飛行能力を用いて颯爽と飛び立ったヱリヤ・・・
同じ母親から産まれ、同じ志の下に集(つど)っていた仲間でもあった・・・
それがいつのころからか意見が合わなくなり、結局の処無謀にも魔将筆頭の軍に突撃を掛け、そのまま行方の分からなくなった弟―――
他所(よそ)からは愚弟だと蔑(さげす)まれても、自分にしてみれば血肉を分けた可愛い弟でもあっただけに、ヱリヤの苦悩も最たるモノだったに違いはなかったことでしょう。
しかも・・・今まで「行方知れず」―――そう・・・「生」か「死」かさえ判らなかったことに、存命かもしれないとの一報・・・
それに聞けば、弱き民を弄(なぶ)るかの所業を良しとする国・組織に加担していることを知り、ならばここは自分が・・・と、云うことで、
種族特有の鎧に身を包み、その鎧に内蔵されている飛行能力で飛び立った―――までは良かったのですが・・・
飛び立ってからの、放物線の頂点に達する頃合いから急に揚力が失われていくのを感じ、
なんと・・・飛び立つ前に計算で割り出していたはずの頂点より、低い位置で降下を始めてしまったのです。
つまり・・・これの示すところは―――〕
ヱ:痛たた・・・予測効果地点より全然手前ぢゃないか―――・・・
ど〜してくれるんだ! シュターデン!!
エ:てへへへw ごメ〜ンねっ?お前さまv
ヱ:あのな・・・この度は私の一族の問題になるかもしれないんだ―――遊びで来たわけじゃないんだぞ!?
エ:だからこそじゃないか〜〜私だって、もうお前さまの・・・辛そうな表情を見たくはないんだよ。
それに―――ゾズマちゃんも満更知らないっていう間柄でもないんだし・・・
ヱ:シュターデン―――・・・
〔正確な数値を割り出せる装置にしては、あまりにもお粗末な結果。
事前に予測しておいた効果地点より遥か手前で降下してしまった―――
しかしそれは無理もなかったことで、もしそこで自分以外の負荷がかかってしまった場合には・・・?
もう少し判り易く云えば、飛び上がった時に自分の長い髪をヱリヤの足に絡ませ、追い掛けてきた者がいるとしたら・・・結果は判り切ったことでしょう。
しかも心当たりありまくりでその名を呼んだら―――ちゃっかりそこへ座っていたのはエルムだったのです。
そのことに・・・今回は遊び半分ではないのだから―――と、云うと、エルムはそこで当たり前過ぎる理屈を述べたのです。
・・・が―――〕
ヱ:・・・本当にそうなんだろうなぁ―――
エ:なっ・・・何をお云いだよ! 嘘がどーか、この私の眼を見てみな!!
ヱ:・・・眸の奥が泳いでいるぞ・・・
エ:ひっどぉ〜い! ヤダ、ウソ、信じらんなぁ〜い!!
ヱ:(少しは真面目に否定しろ・・・)全くぅ・・・仕様のない奴めが―――
エ:えっ? 許してくれるの〜? さぁっすがお前さまv 太っ腹だね〜〜♪
・・・って、あれ? ああん〜〜おいてかないでよぅ〜!
〔やはり、深い処を追求してみたところ、そればかりではなかったようであり、甘えるエルムを置き去りにしてヱリヤ自身は先へと急いだのです。〕