<第十五章;白濁の敵>
≪一節;売り込み≫
〔ヴァーナム山脈によってガルバディア大陸より隔離された地域・・・「ランド・マーヴル」。
そしてこの大陸でも、やはりガルバディア大陸と同じく、地域の覇権を賭けての闘争が繰り広げられていたのでした。
その大陸にある国家の一つ「マグレヴ」・・・
この国こそはルリ達の故国であり、近隣の敵国によって滅亡の一歩手前まで追い詰められていたのです。
そのことを憂慮し、ルリの父であるマグレヴ国王は、ルリを筆頭とする「救援要請隊」を組み、
風の噂で聞いた・・・自分達の国家がある大陸の他にも大陸がある―――
或いは、地元で「魔の山脈」と畏れられたヴァーナムを越えれば、自分達の国や敵対している国よりも強大な国家があり、そこならば自分達を救ってくれるかもしれない・・・
その為に、愛娘であるルリを隊長に仕立て上げ、交渉を行おうとしていたのです。
その呼び掛けに応えたのが―――先頃ガルバディア大陸を統一した「パライソ」であり、
この国の統治者である「女皇」アヱカは、自分達の悲願のために尽力してくれた彼女達の恩に報いるため、「虎の子」とも云える一軍の将に協力させて、
どうにかマグレヴの窮地を救おうとしていたのです。
その一方―――ランド・マーヴルの殆どを掌握しつつあった「マルドゥク」は、自国内で不審な行動を取っていた男女二人を捕えたのですが・・・
そのうちの一人―――女性から、これから大陸統一の野望を果たせるためのいかなる協力を惜しまない・・・と云う、あたら甘言に近い誘いがあったのです。
しかし・・・この二人の対応に当たった一将軍は―――・・・〕
ゾ:ふ・・・なるほどな―――売り込みに来たと云うのか。
良い目の付けどころだ・・・と、云いたいところだが、こちらとしては十分に間に合っている。
あと少しで、ランド・マーヴルは―――目障りな矮小国家連邦と、マグレヴを滅ぼせば我らのモノとなるのだ。
シ:おやおや―――随分な自信がおありのようだけど・・・そう云った絶大な自信がありながらも、夢半ばに散ってしまった処を私は知っているんだけどねぇ。
ゾ:なんだと―――?
兵:おのれ・・・将軍の前で、無礼であろう―――!
べ:創主様に手出しをすると云うなら・・・この私が相手となろう―――
兵:う・・・おお・・・あの女に続き、この男―――までも?!
将:むうう・・・ち、力づくとは云え―――我らでさえも解(ほど)くのに難しいこれを・・・
将:ならばこの者も、かなりな実力を兼ね備えていると云うか・・・
ゾ:―――・・・。
シ:ふふん・・・どうやら驚いて声も出ないようだねぇ。
それに見たところ、見る目があるのはあんたぐらいしかいないと見てるんだけど・・・どうだろうねぇ?
ここは一つ、私達の話に耳を傾けてみようと思わないかい―――
〔大陸統一の手柄を、他所者なんかに奪われたくはない・・・そう云う気持ちもあったのでしょう、
マルドゥクの軍事統括指揮権を委ねられていた将軍・・・ゾズマは、シホ某からの誘いの言葉を断ったのです。
けれどもシホは―――そのことを逆手にとり、強国だと奢り昂っていた処も、やがては滅んでしまったことを示唆したのです。
するとやはり、そのことに著しく反応し、憤ったマルドゥクの兵士がシホに斬りかかろうとしたところ、
シホと同じく「戒縛」に掛けられ、大人しくしていたはずの大男―――ベェンダー某が、自分の主に引き続いてその術を難なく解いてしまったのです。
その事実に・・・途端に余裕の消えうせるゾズマ達―――
シホの計略は、ここまでは順調に消化しようとしていたのでした。〕