≪二節;導き出された結論≫
〔何かにつけて悉(ことごと)く対立しあい―――二つの組織の間に生じた犠牲は、百万単位を軽く超えたとも云います。
それに、ヱニグマにしてもガラティアにしても、組織を指導する立場にあるのだから、或る程度の試算はつくはず・・・
自らの組織の旗色が悪いと見込めれば、速やかに手を引いて次の計画へと移らなければならない・・・
特に、地球との接触が後手組であった「ブラック・ウィドウ」を率いるヱニグマにしてみれば、
先発組が宇宙開拓事業大手である「フロンティア」であると知れた時、
この組織と拮抗する場合・・・一体どれだけの損益が見込めるか―――それが判らないほど愚かではなかったのでしょうに・・・
一方のガラティアの方も、ようやく事業が軌道に乗りかけた時期もあってか、先行投資した時間も費用も無駄にはしたくなかった・・・
そこの処は判るにしても、この敵―――ヱニグマの・・・女禍に対して見せた執念と云うモノには、
最早その感情で説明できない域に達していたことにガラティアは疑問を持ち始めてもいたのです。
・・・だとするならば―――なぜ無益な傷付け合いをしてまで、「地球」や「女禍」という『個』に固執する理由があるのか・・・
様々な理論を組み立て、築き上げた末に達した―――ガラティアの結論とは・・・
ヱニグマと女禍―――この二人の間には、お互いが惹き付けて已(や)まない「ある特性」がある・・・
その相対距離関係が、銀河の端(はじ)にあるのならまだしも―――この「太陽系」と云う宙域の・・・
それも「地球」と云う限られた場所の、まさに息のかかる距離で出会ってしまった―――・・・
これによって、お互いが認めてしまった時から生じてしまった・・・
互いが離れず―――相互作用を創りうる関係・・・
=アレロパシー=
つまり―――この二(ふた)の存在は、来るべくして出会ってしまった・・・
それを、無理矢理に引き離そうとしても、無理らしからぬこと―――
だからガラティアは、ヱニグマのイデオロギーが終(つい)える寸前に、ある術式を施したのです。〕
ガ:―――いいかい・・・今から一度しか訊かない・・・だから正直に答えるんだ。
ヱ:―――判りました・・・
ガ:お前は―――もしこの後、お前自身のレゾンデートルを紡げられるとしたら、どんな風にしたい・・・
ヱ:・・・願わくば―――あの方と・・・あなた方の妹君と、運命を共に・・・
―〜ヒュポスケシス〜―
ヱ:・・・え? ガラティア―――・・・
ガ:・・・今はこのまま―――この私の顕現の流れに身を委ねなさい。
そうすればこの先―――10万か・・・あるいは100万かかるか判らないけれど、お前が再び『個』として目覚めたとき、
お前の望む通りになっているだろう・・・。
ヱ:ふふ・・・申し訳ありません―――なにもかも・・・
ガ:おやおや、あの子と同じセリフを、あんたの口から聞けようとはねぇ・・・。
ヱ:―――それと、申し訳ついでにあと一つ・・・
〔その時ガラティアがヱニグマに施した術式とは―――
術式の対象となり得た者を、自分の顕現の流れに組み込む・・・と、云う、一種の「契約」のようなものでした。
それに、自分達が所属する組織に拮抗できるほどの者を、その流れに組み込められるのであれば、ガラティアにとっても利益のある事でもあるし、
将来を鑑みても、非常に心強い仲間が増えることは良いことだとも思ってもいたのです。
そしてこの後・・・ヱニグマはもう一つの、あるお願いをガラティアに頼んだのです。
それこそが―――自分が敗北し、存在を消滅させてしまった時に発動する「保険」・・・分身(クローン)―――
自分とは形態を同じくにしながらも、「純悪」さのみを追求するために培養された・・・「蝋白なる者」―――
それが、現在―――ランド・マーヴル全体を恐怖で支配しようと企んでいる・・・プルミエール=ド=オプスキュリア(最初の闇)だったのです。〕