≪六節;エルム・・・その本性≫
〔エルムが現在のマキの姿を視界に捉えたとき・・・いつも元気に跳ねまわっていた彼女の姿は様変わりをし、生気も微々たるモノしか感じられませんでした。
しかも、マキの頭蓋は獅子のライカーンの手の内にがっちりと収まっており、剩(あまつさえ)いつでも潰せると云う意思表示まで示してきたのでした。
それに―――・・・〕
獅:ほほう―――これは珍しい、ヴァンパイアがこの大陸にいたとは・・・。
いや待てよ、最近話題に上っている者とは・・・まさか貴殿のことなのかな。
エ:うるさいよ・・・そんなことはどうでもいいから、すぐにその子を離すんだっ!!
獅:おやおや―――これはこれは・・・魔族の頂点に立つほどのヴァンパイア殿でも、この人間の小娘のことが気がかりと見える。
しかし―――フッ・・・フフフ・・・それを知った今では、大人しく渡してやる義務は消滅してしまったようだ。
エ:フン・・・この私に勝負を挑もう―――ってかい、だったらさっさと来な・・・お望み通り、壊し尽してやる!!
〔獅子の獣人は、ここ最近騒がれつつあった存在―――あの魔の山脈を越えてきた者達に興味を示していました。
しかも、この時出会ったのは、同じ魔族でも特別視をされている「吸血鬼」―――ヴァンパイア・・・
この存在の強さが、一体どのくらいなのか・・・強さを極めんとする者にとっては憧れであり、最終的な目標でもあった―――
純然たる強さ・・・そのことを見極めようとした者同士の、闘争の行く末とは―――
それに、当時のランド・マーヴルにおいては、そのワーライオンが強さにおいてのベクトルの上位層におり、
今回の一事変に関しても、自分より強いプルミエールやゾズマからの指示に従ったのみで、どちらかと云えば退屈極まりない出来事でもあったのです。
そんな時に出会ってしまった・・・マキ―――
人間の少女ながらも、自分達に近い殺気・闘気を放つ彼女を、いつもマグレヴの兵士にするように半死半生の状態に陥らせたのです。
すると―――別の場所にて、自分の闘争を繰り広げていたエルムの下(もと)に、昔マキに与えたブラッド・チャリスからの信号を受信し、急いで現場に駆け付けた処・・・
いつもの彼女ではない彼女をみた瞬間に・・・エルムの内の何かが、音を立てて崩れ始めていたのです。
そのことは同時に―――生来より陽気だろうと思われていたある者の・・・意外な側面―――
まるで・・・いつもの道化が、偽りであったかとさえ思わされる・・・その種族独特の性酷薄さが、顔を覗かせた瞬間なのでした。〕
エ:・・・いいかい―――今の内・・・今の内、その子を離せば、なにも命までも取ろうとは云わない。
それに・・・二度は警告しないよ。
獅:ふむ・・・それでは―――云うことに従わなかった場合には・・・?
〔エルムは、或る感情を・・・理性により一歩手前で押さえていました。
そう・・・「闘争を愉しむ」―――と、云う、云わばヴァンパイアの本性を・・・。
―――だとするならば、いつものエルムは、そんな性格を表には出さない「道化師(クラウン)」のようなモノ。
それが・・・この時―――こんな象(かたち)で―――
しかも、彼女がヴァンパイアの真祖と成り得たあの時と同じシチュエーションで・・・
それも、今度は自らが被る側ではなく―――あの当時、今の自分と同じ立場にあった者より与えられたと云う、云わばそちらの方の立場になろうとは・・・〕