<第十八章;牙の時代>
≪一節;“母”と“娘”≫
〔確かに・・・その者は「死」に瀕していました―――
けれど、そんな者を・・・自らの存在の意義と云うべき行為で救ったヴァンパイアは、苦手であったはずの「生」の血を拒むことはせず―――
ただ―――そこには・・・ヴァンパイアの「真祖」が「二人」・・・いたのです。〕
エ:マキちゃん―――いや、我が「娘」マキ・・・気分はどうだい。
マ:・・・う〜ん―――なんかちょっと妙な気分だよ・・・。
それに、身体中の筋肉が痛くって―――丁度、激しい運動して起きた次の朝みたい・・・
エ:フッ―――そいつは良かった・・・。
ではマキ―――お前をこんな目に遭わせた奴に、ご挨拶と洒落込もうじゃないか・・・。
マ:・・・ヤー・ムッター(はい、お母様)―――
〔一方その頃、近くでは・・・あのワー・ライオンと、ユミエが・・・一進一退の攻防を繰り広げていました。
しかしユミエは普通の人間・・・とは云っても、先程のマキのやられ様をその目で見ていたので、あまり無理はせず「ヒット・アンド・ウエイ」にて応戦していたのです。
ですが、そんな小手先の戦法では、相手に大きな打撃を与える余地すらなく、逆にタイミングを先読みされて、反撃にかかられた時の事を危惧しなければならないのです。
そんなところへ・・・再び現れたエルムとマキ―――
しかし・・・もう・・・マキの方は―――〕
エ:・・・さあ―――マキ、行って奴と遊んでお上げ!
マ:ヤー・ムッター。
〔その瞬間―――再び現れたマキが口にした言葉に・・・ユミエは耳を疑いました。
確かにマキは、この国の出身で―――今までにも自分達と一緒に行動をしていたはず・・・
なのに―――それがどうして、赤の他人同然で・・・しかも出身―――果ては生きていた時代も違うはずのエルムを・・・
それも、エルム達一族の言語で「母」などと呼んだのか・・・
けれども反面、良く見れば見た目が・・・以前から自分達がよく知るマキとは異なっていた―――・・・
―――「血」の色を思わせる真紅の眸・・・
―――異様に伸びた犬歯・・・
―――眸の色とは対照的に、青白く褪め上がった肌・・・
そこにいたのは、同じくしているもう一体の「真祖」の特徴を色濃く露わした、新たな真祖―――だったのです。〕