≪二節;危惧≫
〔その一方で・・・一人のヒューマンに起こり得た現象は、斯くの如くその現象をよく知る者達に察知されていきました。〕
ジ:(! この感じ・・・エルムにかけられていた血の封印が―――解けた?
あの子には、私の血を媒介にした呪の効力で、その渇望を抑えさせていたのだけれど・・・
その封印が解かれたと云う事は・・・また誰かが「真祖」に―――?!)
〔その一人である、パライソ国皇女ジョカリーヌは、過去に自分がエルムに施した封印が解かれた事を感じ、
またその事によって、心配しなければならない事が増えてしまった事を察知しました。
そして別の場所では―――・・・〕
ヱ:―――・・・。
敵:隙あり〜もらったぁ―――!
キ:させるかっ―――!
敵:あぶらだ!!
キ:ママーシャ―――どうされたと云うのですか?!
コブリンが襲いかかってきていると云うのに、呆けられて・・・
ヱ:また・・・だ―――
キ:は?
ヱ:この感じ・・・また誰かが―――「不死」の途を択んだようだ・・・。
険しくも哀しい道を・・・シュターデンはそのことを知りながらもやった―――
奴もまた・・・哀れなる者だ。
忌み嫌っていた「父」なる者の所業―――それと同様の事をしてしまったのだからな・・・。
キ:そ―――それでは・・・まさか、エルム様が・・・
ヱ:さて―――フフ・・・これで奴も、愈々もって手強くなってきた・・・と、云うものだな。
〔「血への渇望」―――まさしくそれでした・・・。
自らの意思で―――自らの意にそぐわった者の血を吸う・・・
それまでに幾度となく、エルムが吸血をした後―――それらを総て吐いてしまっていたのは、
無闇に人を襲って吸血をしないように―――と、することと・・・あと、血からの思考を読み取って、ヒューマンが持ちうる「闇の面」・・・恨みや妬みを増幅して感受させるようにした、
「古(いにし)えの皇」自らが、自らの血によって施した「呪」の効果なのでした。
しかし―――それが、何かの拍子に解けてしまった・・・
しかもそれは、「何かの拍子」如きで解けてしまうモノではない事を判っていた為、事態が深刻にならなければ良いが・・・と、ジョカリーヌは憂慮していたのです。
そしてそれはヱリヤ母子も―――・・・
ヱリヤは、エルムとは長い付き合いの間柄でもある為、彼女がどれだけ自分が置かれている立場に苦しんでいたかを知っていました。
エルムは元々は人間―――・・・それが、生前の因果関係により、エルム自身の生命の灯火が消え逝こうとした瞬間―――
父親であるエルムドア大公爵に、その身と血を捧げた・・・
けれど「人間」は―――「彼ら」が思っているほど「強く」はなかった・・・
我慢に弱く―――渇望や誘惑に簡単に負ける・・・
事実、エルムもヴァンパイアになりたての頃は、手当たり次第に襲っていた時期もあったのです。
それも、自分達の仲間を―――・・・
そして気が付けば、また自分は―――仲間達を襲い・・・足元や手は、彼らの血で朱に染められていた・・・
弁解が出来ないまでの既成事実と現場―――
その時エルムは―――怖くなり、怯えました・・・
なにより、自分が及んでしまった行為に―――・・・
その様子を見ていたヱリヤは、自分の親友がこんなにも苦しんでいる事を女禍に相談し、
例の結果になるよう熟考したことでもあったのです。〕