≪五節;ジョカリーヌの懸念≫
〔こうして―――各地で起こっていた戦線を収めさせ、戦勝の報告を終わらせた後、その一族の事を心配していた者達に呼び止められてしまったのです。〕
ヱ:シュターデン・・・
エ:何かご用・・・? 私はこれから「娘」の躾に忙しくなるのだけれど―――
ジ:エルム・・・その様子だと、昔の「自分」を取り戻してしまったみたいだね。
エ:「総て」・・・と、まではいかなかったけれど―――まあ・・・「大体」は、ね。
ジ:―――・・・。
エ:私は・・・あんな風にされて、「迷惑だ」なんてこれっぽッちも思ってやしませんよ・・・。
もしそれで不満があったら―――「強制魅惑」でも使って、とうの昔に元に戻っていたんでしょうしね。
〔もう・・・そこには―――少し軽薄な感じのするヴァンパイアはいませんでした。
「あの時」のように―――少し近寄り難(がた)く・・・
「あの時」のように―――人を寄りつかせない・・・
「あの時」のように―――自分の殻の内(なか)に閉じ籠もり・・・
組織の中でも、少し浮いた感じのする種族―――・・・
しかし、これである程度―――底抜けに明るく、面白おかしい言動をしていた理由が、判ってくるのです。
そう・・・「大公爵」にしても、「公爵」にしても、「子爵」にしても・・・
この一族郎党は、他とは接するのが苦手だった―――
・・・にも拘わらず、「公爵」であるエルムだけが、タケルや婀娜那達が知る上でも、人懐こいように感じるのは・・・
過去に何かしらの事情で「そうされてしまった」―――つまり、「創られた人格」であることが判ってくるのです。
では、「過去」に何があったのか―――・・・
そしてこの一族は、過去の自分を取り戻した現在、一族をまとめる「公爵」によって・・・またも組織から離れ、孤立していく運命を辿るのか―――
そう思われるのですが・・・
けれど、やはり―――「過去」において、この一族に何かしらの封を施したと思われる者の口から・・・〕
ジ:―――エルム・・・いや、「公爵」。
やはり敢えて云わせてもらう―――この私の目の黒い内は、どうかあなたにはもうしばらく出てきてもらいたくはない・・・
あなたの父である大公爵―――エルムドア=マグラ=ヴァルドノフスクの二の轍を踏んでもらいたくはないんだ。
だから―――・・・
エ:―――・・・。
「父」は「父」、「私」は「私」―――「娘」は「娘」・・・
確かに、主上の血の「呪」によって、私の本来の性格は歪められてしまったかもしれないけれど―――
私は云ったはずですよ・・・「迷惑だなんてこれっぽッちも思っていやしない」・・・って―――
ジ:それじゃ―――
エ:さあ? 今の内・・・なんじゃない―――?
あの「呪」を仕掛けるの・・・
ジ:・・・済まないね―――
『我が血の効力によって、其を封じる礎となさん―――』
『生』『老』『病』『死』『愛別離苦』『怨憎会苦』『求不得苦』『五陰盛苦』・・・
――=エクスストリーム・ペイン=――
〔その「八つ」もの「苦」こそは、人が人であるが故の・・・生来から持っている「業」であり、
それを克服することによって、霊的な質を高めようとする「呪」にして、ジョカリーヌが持っていた顕現(ちから)なのでした。
その昔にあった「何か」―――とは・・・主の血の効力によって、封じられてしまったヴァンパイアの本来の性格・・・
孤独にして、厳しくも哀しい・・・その性格をいくらかでも柔和させる為に取られた措置だったのです。
そして再び―――幼い姿をした嘗ての主の指より流れる血潮と、「八苦」を形式化した「呪」により、ヴァンパイアの一族達は・・・〕