<第十九章;砂上の楼閣>
≪一節;準備段階≫
〔パライソ国の将士達が、同盟を結んでいるマグレヴ王国を救援するために、彼(か)の国家がある「ランド・マーヴル」各地で戦線を展開させ、そのいずれもで勝利を収めていました。
そして異国の勇者達の活躍を讃える為、新しくマグレヴの女王の座に就いたルリ=オクタヴィアヌス=ガーランドは、自分の国の臣下達と同列に交え、祝福の辞令を述べたモノでした。〕
ル:ありがとうございます―――あなた方のご活躍のお陰で、風前の灯火だったこの国の命運も、いかばかりか永らえる事が出来たようです・・・。
つきましては、再度そのお力を借りることになります事を・・・今のこの時点で申し上げる次第でございます。
ヱ:新女王陛下―――お言葉を返すようになりますが・・・私達は自分の意思でそうしているのではないのです。
私達の主である、パライソ国女皇陛下の勅命よって動いているのです・・・。
つまりこの事は、私達個人の考えがどうであれ、女皇陛下のご一存であると云う事は、一つの国家が国家としての意義を失う前に救う事―――それを旨としての事であり、
最早他人同然ではない、マグレヴの新女王陛下達(たっ)ての願いであったこそだから―――だと思うのです・・・
〔マグレヴの新女王からの祝辞を、返す象(かたち)となったヱリヤの言葉は、パライソの将官である自分たち個々の思惑なのではなく、パライソ国女皇の強い意志判断の上でだとしたのです。
そのことを―――勿論ルリは知っていました・・・
知っていたからこそ、今回も甘えてしまうかのような行為になる事を申し訳なく思い・・・
今回のお祝いの言葉の内(なか)に、盛り込んでおこうとしたのです。
しかし―――その・・・パライソ国女皇であるアヱカは・・・
自分に関するある因果がこの地にある事を知り―――既に現地入りを果たしていたのですが・・・
異国の地では、流石に自分の事は知れ渡ってはいないだろう―――と、云う事で、マルドゥクからの侵攻の手が緩められている現在、
マグレヴの暫定王宮が設けられている、アーク・ゼネキスを散策していたのでした。〕
ア:(このわたくしが、あの者の前にこの姿を晒したことで、幾許(いくばく)かの猶予は生まれましょう・・・
ですがその前に―――この地での「成果」を、この目に焼き付けておかなければ・・・)
〔アヱカが―――いえ、今となっては「ヱニグマ」として知られてしまった者は、遙かなる過去に自分達が壊そうとしていた「美しきモノ」が、
一体どの程度まで回復されているのかを見納める義務があったのです。
自分達が定住していた「ガルバディア」では、完全に回復―――・・・
それとほぼ同じモノを、ランド・マーヴルに求めてはいたものの、現実的には厳しいモノがあったようです。
けれど、直接「目にした」と云う意義は多いにあった―――あとは、この地にある自分との因果を断ち切り、パライソへと戻った後はマグレヴ復興のための支援を行わなくてはならない・・・
本当は―――自分自身がしなければならない事を・・・なまじ頂点に立ってしまった事で、出来なくなってしまうことだってある・・・
その「苦しみ」は、「相互共感」・・・アレロパシズムを持つ女禍も、嘗て味わった事でもあり―――けれどその事を、
また一つ、自分達は・・・共感し合える事が出来たのだ―――と、ヱニグマははにかんだモノだったのです。〕