≪四節;思惑交々(こもごも)

 

 

〔―――さて・・・しかし問題なのはそのあとの出来事。

議事場より出る、自分の夫を捕まえた婀陀那は―――〕

 

 

婀:―――あなた、ちょっとお待ちになってください。

タ:ああ、これは婀陀那様・・・一体ナニ用でござりましょうか。

 

婀:そのような事はよいですから―――とにかくこちらへ・・・

タ:―――どうしたというのだ、城内では公私を混合させてはならぬと・・・

 

婀:あなた―――お気付きになりませなんだのか、アヱカ様からの視線を・・・

タ:・・・・・・・。

 

婀:返事をせぬ―――ということは、感じておられたのですね。

  ではナゼに無視をする・・・などというような無情なことをなさったのです。

タ:云うな婀陀那―――それは口にはしてはならないことだ。

 

婀:・・・よもや―――とは思いますが、昨晩なんぞかあったのではございますまいな・・・。

タ:―――――ない。

 

 

〔女という生き物は、どうしてこうも勘が鋭いときがあるのだろうか・・・

それも特に色恋がらみなどで―――・・・

 

確かに、そのとき『何もなかった』としていたタケルなのですが、自分の伴侶から投げかけられた訊ねごとに、

思わずも冷や汗が背中を伝っていくのを感じたものでした。

 

しかし―――タケル自身も思うところがあったのです。

 

日頃は淑女の見本のような方が、昨晩はあわや夜這い紛いの行為をするために自分の前に現れた・・・

 

どうして――――??

 

その動機は、タケルも半ば判らない―――とまではしませんでした。

 

そのことは、一番自分が・・・痛いくらいに判りすぎている事だったから―――

でも今は、自分の傍にいる奥方の想いを受け取り、添い遂げている・・・・

 

自分にはよき伴侶がいるというのに、他者と別の契りを交わそうというのは、まさに不貞者の行為であり、

また「不義」「不忠」だとも感じていたのは云うまでもなかったことでしょう。

 

 

それはそれとして―――あの議場にて別の違和を感じていたもう一つの存在たちは・・・〕

 

 

ヱ:キリエ―――ちょっといいか・・・

キ:あっ―――はい・・・なんでしょう。

 

ヱ:なあお前、今日のシュターデンなんだが・・・

キ:ああ―――公爵様のことですか。

  相も変わらずだと思いますよ、今回もまた皆の心を和ませてくれて・・・

 

ヱ:そうか―――お前のほうでもそう思うか・・・

キ:・・・あの、そんなに気になるのなら、サヤさんに聞いてみてはどうでしょうか。

 

 

〔ヱリヤは―――今回の女皇についてではない、自分の同僚に当たるエルムのことについての違和がありました。

そのことを、自分の娘でもあるキリエに訊ねてみれば、キリエは何も疑問にすら感じた風ではなく、寧ろ『七万年前通り』だとしていたのです。

 

しかし―――それで自らが抱く疑問が拭い去れたわけではないヱリヤは、今度はエルムの近親者であるサヤに訊ねる事としたのです。〕

 

 

ヱ:サヤ君―――ちょっといいか・・・

サ:ああ―――これは・・・驃騎将軍様。

  あの・・・なにか―――

 

ヱ:今は形式的なことはいい―――ちょっと君にモノを訊ねるのだが・・・

  君の母親代わりであるシュターデンは、何かあったのではないか・・・と、思ってな―――

 

サ:・・・・やはりそのことで―――ですか・・・

ヱ:「やはり」―――? ・・・と、云う事は、つまり君も・・・

 

サ:感じないわけではありませんよ―――

  ただ、久方ぶりにお会いしたんだから、二・三言葉を交わしたいものじゃないですか―――

  それなのに、朝議か終わっちゃうと私に眼をくれるでもなく・・・さっさとどこかへ行っちゃったんですよ??

 

キ:そんな―――・・・アレだけサヤさんを可愛がっていた方が・・・

 

ヱ:そうか―――だとするならば、気の所為ではなかった・・・と、いう事だな。

キ:ママーシャ―――? どういうことなのですか、それは・・・

 

ヱ:キリエにサヤ君―――お前たちも、あいつと私との莫迦なやり取りは覚えているだろう・・・

  だが、私が違和を感じ取ったのは、あいつが女皇陛下に陳謝の言葉を述べたときのことなのだ。

 

サ:あのとき―――・・・

 

ヱ:―――そうだ。

  私には、何かしらあのときのシュターデンの言葉が、あやつの言葉ではないような感じがしてならないのだ・・・

キ:―――云われてみれば・・・どこかしら大人びた感じがいたしました・・・

 

 

〔サヤは―――エルムのエクスワイヤーであり、娘にも似た存在・・・

それだから、今回の異変を一番に感じないはずはなく、それとなくヱリヤに告白をしてみると、

そのことがヱリヤにとっても気になったところのようだったのです。

 

―――が、しかし・・・

 

そこから彼女たちはどうすることも出来なかったのです。

 

それというのも―――エルムが冠していた内務官職・・・『御史大夫』とは、

古来より、組織内部に叛意ある者がいるかいないか―――の、探りを入れる「内部監察官」の長でもあったのです。

 

そんな者が・・・サヤの云われのように、自分に近しい者と接触する事なく行方を晦ませた・・・

人知れずいずこかへ消え去った―――ということは、城内にある植え込みの茂みや、天井裏・・・

果ては、物体の陰影に紛れなどして―――??

 

・・・だとするならば、それは自分の影や隣合わさった者の分まで、際限なく気にしなければならないわけであり、

だからこそ、そこでは口を紡ぐ事ぐらいしかできなかったのです―――。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

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