<第二十章;未来(あす)の勝利の為に(前)>

 

≪一節;繰り返される悲劇≫

 

 

〔「マグレヴ」と「マルドゥク」・・・両国家の争乱は、最早避けられない事態となり、各地では激戦が繰り広げられたモノでした。

 

これはその内の一つ・・・「ジブの戦い」―――

この地での戦闘を任されたのは「ハイランダー」、それに皮肉なことに相手は自分達と同族であり、

更にはヱリヤ実の弟にして―――種族の旧名家「アグリシャス家」に養子に出されていた・・・「ゾズマ=ルクスゥ=アグリシャス」―――

つまりヱリヤはまた、自分の血族と闘わなくてはならなくなったのです。

 

その彼―――ゾズマも、本来ならばシャクラディア帝国の将官の一員なのでしたが・・・

それが、去る10万年ほど前に、やはり当時から拮抗していた「カルマ」との戦いにおいて、魔将の一人であった「アラケス」の陣に突撃を掛け・・・

それからの行方―――況(ま)してや生死の分別も定かにはならなかったのです。

 

そう―――つまり・・・自分の実弟であるゾズマは、魔将アラケスの陣に無謀とも云える突撃を掛け・・・華々しく散って逝った・・・

だからこそ、永い間「シャクラディア」でも「パライソ」でも欠員扱いになっていたのです。

 

なのに―――・・・半ば諦めかけていた今日(こんにち)、なんと弟は異国の地にて生きており、しかも・・・嘗ての自分の仕えていた君主の理想とはかけ離れた意思の下に身を寄せ、

そして自分達の前に立ちはだかってきた・・・

 

ヱリヤは、ゾズマが生きていてくれたと云う喜び半分の処に、まるで自分達に当てつけるかのような行為に、次第に腹立たしくなってきていたのでした。〕

 

 

キ:(うわ〜・・・こんなママーシャ、今までにも見た事がない・・・

  大丈夫なのかしら―――最悪、この国が消滅しちゃう・・・なんてことは・・・)

 

ヱ:―――左将軍、傾注・・・

キ:あっ・・・は、はい―――っ!

 

ヱ:早急に・・・この場からマグレヴの兵達と共に離れなさい・・・。

キ:えっ・・・申し訳ありません―――今、なんと・・・?

 

ヱ:聞きわけが悪くなったモノね・・・この国の兵士共々、お前も下がれ―――そう云ったの。

キ:・・・お言葉を返すようですが、仰っている意味がよく判りません。

  そも・・・ママーシャ―――驃騎将軍様におかれましては、なぜそのような事を・・・

 

ヱ:私の弟との確執は、姉である私自身が埋め合わせないといけない・・・

  故に、関係のないお前達まで、巻き添えを食わなくてもいい―――と、云う私の配慮からよ・・・。

キ:これは―――驃騎将軍様のお言葉とも思われません。

  確かに―――この国の兵士達にとってはいい迷惑かも知れませんが・・・この私は、高潔なる龍の騎士の正統な血を引き継ぐのですよ、

  それを・・・なぜ今になって、そのような無情な事を仰られるか。

 

エ:・・・フ――― 一端(いっぱし)の口を利くようになったモノね。

  まだまだ「ねんね」のままだと思っていたのに―――・・・判ったわ、ならば通達を一部訂正、この国の兵士だけをこのジブから下がらせ、お前は私の闘争を見届けなさい・・・

 

 

〔ヱリヤは、周囲(まわ)りの誰しもが見ても、既に近寄りがたい雰囲気を醸し出していました。

 

あんなにも心配をしてやっていたのに―――なのにあいつは、この自分に当てつけるかのように、宣戦を布告してきた・・・

上等じゃないか・・・あいつがその気なら、自分とて容赦をするつもりはない・・・

自分達の理想としている「XANADO」を阻むモノは、それが例え血の繋がった肉親であったとしても総て「敵」―――

虫けらにも等しい「敵」・・・―――!!

ならば、それら如きと等しい扱いをしてやる―――!!

 

とどのつまり、もうすでにその地は、殺意・殺気の渦中―――

だから、この地をそんな風に変えてしまっている母に、キリエは一瞬たじろいでしまったのです。

 

しかし・・・ふとした母の言葉に、キリエは耳を疑い―――聞き直しをしたモノだったのです。

つまり、未だに未熟と思われている自分を、この国の兵士達と共に下がらせられようとしていた・・・

ここ最近で、ようやく成体化に近付いていたと云うのに・・・この措置はあんまりではないか―――だからこそキリエは、そこで母であるエリアに対し、初めて反発したのです。

 

そんな愛娘を見て、ヱリヤは往時の自分と重ね合わせていたモノでしたが、彼女だけには判っていたのです。

この場が・・・ジブが―――「阿鼻」「叫喚」よりも凄まじい戦場になるであろうことを・・・。〕

 

 

 

 

 

 

 

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