≪四節;劣勢≫
〔やはりこちら―――「カルカノール」では、予想していた以上に多勢で攻め込んできているからか、苦戦を強いられていたようです。〕
兵:たっ―――大変です!! 本陣西側より新たな敵影を確認しました!
兵:し―――しかもその中には・・・ベヒーモスやマンティコアなど、大型の魔獣が・・・
テ:ぬ・・・ぬうぅぅ〜〜―――なんだと・・・やつら、ジブやミレットを捨てて、敢えてカルカノール一本に絞ってきたと云うのか・・・
婀娜那殿、それでもそなたは―――
婀:落ち着きなされ―――妾たちが踏み止まっておれば、いずれ彼(か)の二地点・・・ジブ・ミレットより援軍が来ましょう。
それに、敵の虚を突いた我が夫の奇襲が功を奏せば、そちら方面からの援軍も期待できる・・・
そして―――マルドゥク軍は、この地にて一挙に壊滅・・・討ち鎮める事が出来るのじゃ!
〔この時、婀娜那によって語られたタケルの戦略理論こそ、後の世に語り継がれることとなった「カルカノール戦役」なのでした。
そう・・・元来、攻勢の名手として名高かった婀娜那が、どうしてこの時ばかりは固く守ることにしたのか・・・
それは、自分の夫の戦略を頑(かたく)なに信じていたからこそ・・・だったのです。
けれども、その前にやらなければいけない・・・最優先すべき課題―――
苛烈とも思える、敵からの猛攻を耐え抜くこと・・・
しかし―――依然、劣勢は否めなく・・・〕
兵:だっ―――ダメです・・・とても持ちこたえられそうにありません!
兵:敵は多勢の上に、大型の魔じゅ・・・あぐぁっ―――!
テ:くそ・・・敵はもうここまで入り込んできたか―――
婀娜那殿、ここはもう陥落したも同然、ここは一刻も早くルリ女王のおられるアーク・ゼネキスまで撤退を・・・
婀:・・・フ―――何を莫迦な・・・もう勝ちは見えておるものを・・・
テ:何をおかしなことを! そなたはこの現状を見ながら・・・なぜ勝っているなどと―――
それに、我らマグレヴの兵が傷つき斃れて逝くのは、真(しん)に国家を想ってのこと・・・
それを、異国出身のそなたらを、母国ではない地にて果てさせるのは、我らの総意ではないのですぞ!
〔とうとう、本陣内まで侵入してきた―――マグレヴの魔物兵と、傘下の魔獣軍団・・・そうした中で次々と散って逝ってしまうマグレヴの兵士達。
そこで、マグレヴ・パライソ連合軍の総大将であり指揮官のテツローは、パライソの将である婀娜那を、自分達の君主であるルリがいるアーク・ゼネキスまで下がらせようとしたのです。
この国の将士が散り逝くのは・・・この国を愛し、また護るため―――けれども・・・
この国の人間ではないパライソからの客将までも、この戦場にて散らせるわけにはいかないとしていたのです。
けれど―――・・・テツローのそうした配慮は、婀娜那にしてみれば無意味でした。
だからこそのあの言葉―――・・・
現実として眼に見えているのは、劣勢の自軍―――なのに、なぜ・・・婀娜那は「勝っている」としたのでしょうか。
しかしそう―――彼女には感じていたのです、もうすぐ―――・・・間もなく―――・・・〕