<第二十三章;史上最大の戦い>
≪一節;援軍の到来≫
〔戦場の東南の方角から、突如現れた未曾有の敵軍―――
マルドゥク兵は、マグレヴの援軍をそう捉えるしか有りませんでした。
この地域の形式ではない鎧を着込み、各軍を統括する将校らしき者が、自分達を討ち参らせようとしている・・・
その援軍の大隊の一つは、「旋風」のように戦場を先駆け―――
別の大隊の一つは、なにか「呪」のようなモノを詠唱して、群がりくる敵兵を薙ぎ払う―――
そして、また別の大隊の一つは―――・・・〕
リ:そこを・・・退けえぇ〜〜―――!
婀娜那・・・婀娜那様はどこ―――?!
〔いずこかより現れたマグレヴの援軍の一つに、リリアはいました。
そして彼女は、誰かを探していた―――・・・
その「誰か」とは、以前よりリリア自身が慕っている婀娜那なのでした。
敵味方、乱れる戦場で―――探し人を見つけるのは至難の業かと思われましたが、それは過ぎたる心配と云えました。
戦場に嘶(いなな)く戦馬(いくさば)の声―――その背に跨(またが)るは、まさに「威風堂々」とした将軍なのでした。〕
リ:婀娜那様―――! よくぞご無事で・・・!
婀:おお、リリア殿か・・・妾が思っていたよりも早かったようですな。
リ:は―――はいっ! 当然です・・・何より私は・・・
婀:それより、他の者達は・・・
リ:ご安心を―――すぐに駆けつけてきます。
〔生涯―――憧れている方からの賞賛の辞(ことば)を受け、それだけでリリアは無上の悦びに包まれました。
事実、援軍に駆け付けた他の将校たちと合流するまで、婀娜那と駒を並べていた時のリリアの表情は、得も云われるモノだったのですから。
ともあれ・・・マグレヴ軍は、援軍に駆け付けたパライソ軍と合流することにより、開戦当初の倍にまで膨れ上がっていたのです。
ところが―――・・・〕
イ:公主様―――お待たせを致しました。
婀:うむ、皆、戦場での武働きご苦労・・・お陰で死に絶えた軍も、息を吹き返す事が出来そうじゃ。
イ:そうは云われますが・・・私達が加わって、ようやく五分―――現状を見る限りではそう感じられます。
リ:イセリアぁ〜〜―――全く、あんたって人は、折角士気が上がりかけてるのに水を差すモノじゃないわよ!
イ:ですが・・・現実とは斯くも厳しいモノなのです、あたら微温湯(ぬるまゆ)に漬かっている人には判らないでしょうがね・・・。
リ:な・・・ぁあんですぅってえぇえ〜〜!! 云いたい事を云ってくれるんじゃないわよ!大体あんたは―――
ギ:あぁ〜あ・・・また始めちまいやがった・・・始めると長いんだよなぁ―――
ノ:ハッハッハ―――いや、全くだ・・・
チ:弾正様、他人事では・・・
〔自分達は・・・現在窮地に追い込まれているはず―――その事は、テツローも犇(ひし)と感じていました。
しかし―――喩えそうであろうとも、自分達の国を援助する為に現れた異国の将士達は、そんな事は少しも感じていないようだった・・・
それも投げやりな態度ではなく、これまでにもこんな「死線」を幾度も越えてきたかのような、「自信」に満ち溢れてさえいたのです。
「自信」―――・・・
そう云えば、自分達はそう云うものを失くしてきて、どれくらいが経つのだろう・・・
「自信」―――・・・
数々の経験を基に、裏打ちされてくる揺るぎなきモノ・・・
それは脆くもあり・・・けれど、なんだか彼らを見ていると、過去に失くしてしまったモノを取り戻す事が出来るかもしれない―――
そう錯覚した事に、間違いはなかったようです。〕