≪三節;衛兵とのやり取り≫
〔そして満を持して―――アーク・ゼネキスの宮殿に足を向かわせた処・・・〕
衛:―――うん? おい、ちょっと待て・・・お前は何だ。
衛:今は混乱している為、一般の者が宮殿に立ち入るなど罷りならん―――
ア:どうぞお構いなく・・・わたくしは、この国の新しい女王陛下様とは顔見知りでございます―――
長:ほう・・・ルリ様の―――?
いやしかし・・・あの方の親族及び血縁の方は皆亡くなられたはず―――・・・
すると―――まさかそなたは??
ア:そうです・・・わたくしは、あの山の向こうから来た者―――
あの山の向こうにて、新しい女王陛下様と親しくして頂いた者にございます。
長:なんと・・・そうでありましたか。
これは失礼をば、いたしました―――しかしそれでは・・・あの死の山脈を越えてこられたと・・・
ア:―――それは少し違います、わたくしは、さある技術者の手によって、この地に苦労をせずに来させて戴いたのです。
長:ふむ・・・それはともかくとしても、遠路遥々(はるばる)よくマグレヴに来られました。
我々はそれを歓迎するモノにございます―――
〔混乱する以前のマグレヴでは、喩え宮殿だと云っても一般庶民達が自由に出入りできる処でした・・・。
けれど・・・一度和が乱されると、王族の方々に危害が及んではならない―――と、云う事で、一般の自由参賀は禁じられたモノだったのです。
それでも尚・・・そんなお触れが出ているのにも拘らず、宮殿に入ろうとする不審な女性―――
でも、この女性の身元を、女性自身が証し立ててみたところ―――どうやらこの女性は・・・
新女王がこの国を救うため、力となってくれる国家を探すべく国外脱出を図った―――その先々でいろんな人物と出会い、人間関係を作った・・・
恐らくこの女性も、そんな人物の一人だろう―――ことまでは、アーク・ゼネキスの宮殿を護る衛兵の隊長でも判ったのです。
それにしても―――話し方の物腰柔らかく・・・それでいて、自分の主張ははっきりとしている・・・そう云った態度と云い、どこも疑う余地がなかったのです。
そうして疑ってしまった事を速やかに陳謝し―――せめてもの償いに・・・と、宮殿内を案内しようとするのですが、
そうしてしまう事で、本来彼らが務めてしなければならない事を放棄させることになってしまうモノだ―――と、その女性は断りを入れ、
一人で宮殿内に入って行くのを見送ったのです。
そうした背中を見て・・・衛兵の隊長は―――〕
長:(あの女性・・・只者ではない―――漲(みなぎ)る気品、堂々としたる人格・・・喩え布衣(ほい)を纏っていても、隠しきれるモノではない・・・
終(つい)にはどこの誰かと名乗って頂けなかったが―――あの方は、相当名のある人物に相違あるまい。
あのルリ様が・・・あれほどの人物と親交を持たれたとは―――人とは変われるモノなのだな・・・)
〔この衛兵の隊長は、特に人を鑑(み)る目が備わっていた―――と、云うわけではありませんでした。
けれども・・・そんな彼をしても、感嘆させるに足る風格の持ち主―――・・・
彼も・・・また、彼の部下も・・・誰一人として知るはずもありませんでした―――
今・・・宮殿の通路を通って、新女王のいる玉座の間に向かおうとしている方こそ―――
マグレヴの窮地を救わんとして、自国の大軍を動かし・・・また、自国の跡目である皇女を派遣させた―――女皇本人・・・だと云う事を・・・。〕