<第二十七章;その後十年・・・>

 

≪一節;去る者の言葉≫

 

 

〔戦乱もなく―――総ての生命が平等に過ごせると宣言されて、まさに平和な世の中が続きました・・・。

 

これまでの戦乱によって、荒れた土地や街並みを官民一体で復興させ、「武」から「文」へ・・・と、まさに文字通りの繁栄があり、

街行く人々や暮らしの中で、再び笑顔がそこには満ち溢れていたモノでした。

 

そして10年が経ち―――・・・

マグレヴに出向していた象(かたち)のパライソの官達も、徐々に引き上げを終え、両国間共に流通や交流が盛んとなる中―――

最後の一人となった皇女・ジョカリーヌは・・・〕

 

 

ジ:(さてと・・・私のこの地での役割もあと少し―――

  この国の為を思って残ってくれた皆も、パライソへと引き上げたことだし・・・私もそろそろ戻らないと―――ね・・・。)

 

 

〔マグレヴは、疲弊した国力を回復させる為、残ってくれたパライソの官達の助力の下、以前とは比べ物にならないくらいに国力を着け、

既に一年足らずの頃には、マグレヴの官民による政治経済の運営がなされ、最早そこにはパライソの支えは必要ないとさえ思われていました。

 

それなのに・・・その後10年―――お互いが干渉・衝突し合う事はなく、友好関係を築き上げられてきたと云うのは、

(ひとえ)に、両国共に学ぶべき処が多様にしてあったから・・・

そして、その太いパイプ役ともなったのは、以外にも皇女・ジョカリーヌではなく、花の宿将セシルの兄にして、その智はタケルにも匹敵すると云う・・・カインだったのです。

 

そのカインの手厚い指導の下(もと)、これからは農業などの生産業を基(もと)に、治水・交通網などを発達させ―――

従前までは軽視されがちであった、ランド・マーヴル南方に目を向けることにより、元々あった石高を倍増させることに成功させていたのです。

 

こうして―――カインの功績などもあり、対等な立場ともなったパライソとマグレヴは、その後も友好関係を拗(こじ)らせることもなく、

10年経った今日(こんにち)、最後まで残っていた皇女が、これまでのことと、これからのこと・・・そしてお別れの辞(ことば)を述べる為に、

マグレヴの首都であるアーク・ゼネキスの宮殿に、女王のルリに接見を求める為、参内(さんだい)をしたところ・・・〕

 

 

ジ:ルリさん・・・

ル:これは皇女様―――そうですか・・・今日であなた様ともお別れなのですね・・・

 

ジ:うん―――・・・もう、私は必要ではないからね・・・。

ル:そんな―――そんな事はありません・・・。

  まだまだあなた様には、ご教鞭(きょうべん)を取って頂く事が・・・

 

ジ:ううん―――もう私が、君達に教えてあげられることなんて・・・ないよ。

  それに、実にあなた達はよくやった。

  私達も、あなた達を支援するとは云え、この国をここまで立ち直らせたのはあなた達の力だ。

  それに・・・このまま私が、この国に居座るようなことになれば、まるでどこかの小姑のようになるとも限らないしね・・・。

  早い処、ボロが出る前に去らないと―――・・・

 

ル:・・・女禍様―――

 

ジ:そんなに・・・寂しい顔をすることなんてないと思うよ。

  私が云ったのは、「公務はここまで」―――事実、パライソからは新たな可能性を求めて、入植をしてくる人々が後を絶たないと云うからね・・・。

  それに―――フフ・・・それに、閑(ひま)を持て余した、どこかで見かけた顔の連中が、この国で骨を埋(うず)めようとしている・・・

  かつて―――私がそうしようとしたように・・・

 

ル:・・・パライソ国次期当主様に置かれましては、誠に有難うに存じ上げます。

  つきましては―――私どもの国も、機会を見計らいまして、不勉強な者達を貴国へ向かわせることのお赦しを、どうか女皇陛下にお伝え願いたくば―――・・・

 

ジ:それじゃ・・・元気でね―――

 

 

〔これが、「永(なが)の別離(わか)れ」ではない事が判っていたからか、二人とも惜別の涕は流しませんでした。

 

それに・・・皇女も云っていたように、「どこかで見かけた顔の連中」と云うのも―――解雇ではない・・・自らが職を辞して、

携えていた「聖剣」も、神殿などに奉納するなどして手離し、新たにランド・マーヴルにて土に塗(まみ)れた営みをしようとする家族も見られたようなのです。

 

これからは・・・「武」による統治ではなく―――「文」による統治・・・

突然襲来する外敵から国や民を護るための、「自警団」並みの軍事力は存在していても、そこには最早「職業軍人」と呼べる者達はいませんでした。

 

皆、戟や槍―――剣などを、鍬や鋤に変え・・・時には腐りながらも、時には収穫の悦びに身を委ねながらも・・・

平和な世の中では、そうすることが一番でもあったのです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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