≪二節;民達の中に・・・≫

 

 

〔それから5年の後―――・・・

国権を、現女皇から民衆たちの代表である「総統」に委譲する式典の最中(さなか)・・・

 

集まった群衆の・・・その中に―――・・・〕

 

 

ジ:私は―――今日のこの日が来る事を、どれほどか待ちわびました・・・。

  今までは私達―――王侯貴族が、国家の利権を牛耳ると云う象(かたち)で独占し、専横の限りを尽くしてきた・・・

  けれど、これからは違います―――これからは、あなた達が選んだ民衆の代表である「総統」が、「議会」と良く話し合いをして・・・

  あなた達の生活を、何不自由なく―――平等にすることで、誰一人の為でもない・・・まさに「総て人民の為に」治世はあるモノだと、私は確信するのです。

 

  そうです・・・これからは、あなた達の時代―――

  あなた達が、「時代」と云うモノを動かしていくのです―――

  よって私達は―――・・・・・

 

総:いかが―――されましたか・・・

 

ジ:あそこに・・・私の母が―――

 

総:ほう―――先代の・・・ではこちらに・・・

ジ:いや―――いい・・・これでいいんだ・・・

  あの人は、自分が望んであの場所に―――民衆たちの中にいる・・・

 

  ・・・これでようやく―――君は・・・君らしくなれたんだね・・・

 

 

〔皇城シャクラディアにて―――大勢の国民達の前で、熱のある演説を奮う・・・現女皇ジョカリーヌ。

その高らかな声は、民衆たちの内に眠る、潜在的なモノを揺さぶり動かし、これから変わろうとする世の中への期待感を膨らませる、名演説となりました。

 

しかし―――その途中で、現女皇は群衆の中に何を見たのか・・・

流れるような演説が、ハタと止まってしまう機会が生じたのです。

 

当代きっての名君が―――演説を途中で止めてしまうのは前代未聞・・・

けれど、そこにはそうするだけに足る事実があったのです。

 

そこには―――・・・

流れるような菫紫(きんし)色の長髪を靡(なび)かせ―――

燃えるような真紅の眸を潤ませた―――

一人の女性・・・

 

その女性が誰であるか、ジョカリーヌにはすぐに判りました・・・

そう・・・自分を産み、育んでくれた―――アヱカである・・・と。

 

しかし―――今までの話しの流れからしても、その人物はすでに故人であり、その為の大々的な葬儀も終えた筈・・・なのに・・・

それでもジョカリーヌは、隣にいた総統に、民衆たちの中に自分の母がいるとしたのです。

 

その事を知った総統は、失礼のないよう―――その人物を皇城に招待しようとしたのですが・・・

ジョカリーヌは、それがその人物の意思であり、また望みであった事を述べると・・・また、流れるような演説を続けたのです。

 

 

それにしても・・・ジョカリーヌが確認をした女性とは、アヱカだったのでしょうか―――?〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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