≪二節;記憶にある場所・・・≫
〔その一方でヱリヤは、現在自分たちが居住としている建物に、ある顔見知りの人物を招き入れていました。
その人物とは―――・・・〕
ヱ:うぅっ―――・・・あ、あなたは・・・大公爵!!
大:フッ・・・久しぶりだな―――ヱリヤ・・・。
ヱ:な・・・なぜあなたがこの世に復活を―――
大:ほほぅ・・・これはこれは―――
随分なご挨拶ではないか、ヱリヤ・・・お嬢ちゃん。
余に対して、馴れ馴れしい口の利き方をするのは、汝の母の血の所為か―――
ヱ:うっ・・・く―――・・・
これは・・・申し訳ございませんでした・・・。
大:ナニ、構わんよ―――別に。
〔あの・・・敵の猛将の前でも、何一つ物怖じしなかったヱリヤが・・・不意とは云え、一人の人物の来訪を受けて動揺をするとは・・・
けれども、それは致し方のないこと―――
それというのも、ヱリヤの前に立つ人物こそ、遙かなる過去にも存在していた者にして、ヱリヤの母の同僚・・・そして、往時の女禍の有り様を詳しく知る人物だったのですから。
そんな彼の前では・・・自分やエルムなどは、まだまだ乳飲み子同然―――なのだろうか・・・
でも・・・ではどうして、大公爵・エルムドアは、こんな時分に自分の居住を訪れたのだろうか。
すると、やおらしてエルムドアが告げるには―――・・・〕
大:―――ところでヱリヤ、汝には少し面白い話を持ってきたのだが・・・聞く耳は持つかな。
ヱ:(むん・・?)なんですか―――面白い話とは・・・。
まあ、私をからかうものでなければ、聞かないわけでもないが・・・
大:そうか―――・・・
まったく、予想の範疇を超えぬ応答(こた)えで、反面面映いところではあるが・・・
そうだな―――ではとりあえず・・・場所を変えるか。
〔『面白い話』―――得てしてそれは二つの性格がある・・・
自分をからかうための、何のことはない与太話―――に、本当に興味をそそられる話し・・・
ヱリヤは、大公爵のほくそ笑む顔を見ると、なにやら背筋に冷たいモノが走るのを、感じずにはいられなかった・・・
けれども、昔からの経験上、この人物が持ち込んでくるのは大概後者に当てはまるため、今度はまたどんな重要なことを知らせに来たのかと思い、
エルムドアに導かれるままに、彼の創り出した移送方陣に足を踏み入れたのです。
すると・・・着いた場所は―――〕
ヱ:・・・着いたの―――うわっ!? こ・・・ここは―――!!
大:そう・・・ラボだ―――
汝にも記憶があろう・・・汝の母であるラゼッタに手を引かれて、ここに来た記憶が―――
ヱ:こっ・・・今度は一体ナニ・・・を―――
うん・・・? あ、あなた様は―――!!?
〔ヱリヤ自身、まだ幼かった時分に、自分の母であるスターシア=ラゼッタ=アトーカシャに手を引かれて、この施設に足を運んだ記憶がありました。
でも、当時は・・・多くの調整浴槽などが稼動し、その中には種々様々な生物たちが蠢いていた・・・
今でさえ、血飛沫(ちしぶき)舞う戦場を、縦横無尽に駆け抜ける猛将だとはいえ、当時のヱリヤにしてみればそんな彼らはグロテスクそのものでしかなかった・・・
例えそうでもないのに・・・ある生物の巨大な目と、ガラスの浴槽越しに視線が鉢合わせになったとき、ヱリヤは取るもとりあえず、母にしがみついていたものだったのです。〕