<第六章;姉と妹>
≪一節;不可解な事実≫
〔有り得ない真実―――が、有り得るべくして存在している・・・
こんな、世の理にも反したことが実際に起こっている・・・だ、なんて―――
今のゼシカの頭の中では、すでにそのことで一杯でした。
では、彼女が異常であると認めたほどの、その時起きていた有り得ない現象とは・・・?〕
ゼ:(れ―――霊子質量が2億を超えている・・・のに、霊圧が0??!
そんな莫迦な―――魔導災害級の霊濃度数値なのに・・・なのに、ここがこんなに穏やかであっていいはずがない!)
〔そう―――霊子質量が魔導災害級の数値だったのに、霊圧が恐ろしく低い・・・いえ、全くなかったのです。
それに、その時示していた霊的属性(アライメント)は―――LOW・・・だとしたら、これらの事象を踏まえて導き出される事実はただ一つ。
それは―――・・・
―――と、ところが・・・〕
ゼ:(あっ・・・消えた―――? ・・・ならばせめて、発現した場所の特て―――・・・)
―――ええっ?!!
〔その、異常があったことを示す輝点は、ゼシカがツールを開いて調べるのを予測していたかのように、数塵と経たぬうちに消失してしまいました。
けれどもゼシカはすぐさま、この魔導災害級の数値をはじき出していた存在と、出現した場所の特定をするため、分析をしてみたところ・・・
なんと、とんでもない処に、その物体が現れていたことを示していたのです。
では―――ゼシカ自身が割り出した、とんでもない物体が出現した、とんでもない場所とは・・・
今、その場所に向かって城内を駈けるゼシカ―――・・・
すると、ある部屋の前に来ると、門番のように佇む二人の近衛兵に・・・〕
葵:(葵;ヴェルノア出身の女皇の護衛)
―――お待ちください。
茜:(茜;葵同様、ヴェルノア出身の女皇の護衛)
女皇陛下におかれては、ただ今御休息をされています―――
ゼ:ちょ―――ちょっとすみません! そこをどいてください!! 早くしないと陛下が・・・!!
葵:(な・・・に?!)―――陛下が?!
茜:おかしなことを・・・将作大匠、しっかりしてください―――我らがここにいる限り、何人たりとも陛下のおそばには・・・
ゼ:それどころじゃないの―――! 現に、私のツールが陛下のご寝所に何者かが現れた痕跡があると・・・
〔元々、今の女皇陛下の自室及びご寝所を警護する近衛の二人こそは、ヴェルノア公国公主でもある婀陀那直々の、お抱えの近衛兵でもありました。
いや、それにしても―――この常軌を逸脱している現象が起こった場所を、ゼシカは女皇の寝所だともしたのです。
あの・・・不確かなるけれども、魔導災害級の数値を抱く者が、パライソ国女皇の部屋に突如として現れ・・・そしてすぐに消えていった―――
そのことに胸騒ぎを覚えたゼシカは、すぐさま女皇に取り次ぎをしてもらいたかったのですが・・・
そんなところへ―――〕
エ:オヤオヤ―――何をやってんだい。 そんな大声を出してちゃ陛下がお休みできないだろ?
葵:あ・・・これは―――御史大夫。
茜:申し訳ございません―――しかし・・・
ゼ:エルム様―――丁度いい処へ・・・お願いですから、近衛の二人に云ってやってください。
早くしないと大変なことになるって―――
エ:ゼシカちゃん―――あんたらしくもないよ、何があったかは知らないけれど、狼狽する〜〜だ、なんてさ・・・
〔偶然にもその場に現れたのは、御史大夫でもあり―――「帝國の双璧」楯であるとも知られているエルムなのでした。
そこでゼシカは、今のこの場で最も官位が高く、古(いにし)えでは皇の相談役でもあったヴァンパイアの真祖を介して、
大至急に女皇の下へ―――と、したかったようなのですが・・・
今までの経過と云うものを知らないエルムは、日頃はこんなにも狼狽をしないゼシカに対し、落ち着いてみるよう説得をするのです。
けれどもゼシカは、逼迫した状況を知っているので、証拠となるモノを見せてみることにし―――・・・〕
ゼ:・・・ならば、これを見てください―――
エ:うん・・・? な、なんなんだい?これは―――悪い冗談にしたって程ってものがあるよ?
ゼ:エルム様・・・ならば、今のこの私の眼が嘘を吐いているように見えますか―――
エ:・・・本当なんだね?
ゼ:―――ですから早くお取次ぎを!!
エ:判ったよ―――ちょいと、葵に茜・・・そこを通しておやり、全責任は私がとるよ。
葵:・・・御史大夫様がそこまで云われるのでしたら―――
茜:畏まりました、どうぞお通りを―――
〔やはり、エルムでもなんのことで大騒ぎをしているのか・・・原因まで判らなければ強権を行使できないモノと踏んだのか、
そこでゼシカは自分が狼狽することとなる原因を見せたのです。
それを見せられると・・・やはり、エルムでさえも色めきたちました。
常識的には考えられない数値と―――その発現場所・・・
このまま躊躇してしまっては、手遅れの他ならないことだとし―――速急に事態の対処がなされたのです。〕