≪四節;ものの理(ことわり)を料(はか)ること―――A≫

 

 

〔するとそこで―――ヤノーピルは目を見張りました・・・

なるほど―――云うだけのことはある・・・忙しさに感(かま)けてしまって、つい手心を加えてしまったことを見透かされた時は泡を喰ったものでしたが、

この巨漢はそうであっても、一つとして手を抜いた素振りを見せない・・・

 

それにどうだろう―――・・・この、まるで肌が粟立つような感覚・・・

鋭すぎる―――まるで食材の一つ一つの切り口が、業物の刃物で斬ったときのように際立っている・・・

この男こそ真の庖丁人に違いない―――・・・

 

突如としてクレームをつけてきた男に、ヤノーピルは思わずも腹を立てたものでしたが、

それは間違いだった―――けれどその間違いは、自分でもいけないことだと判っていたところでもあっただけに、指摘をされると尚更頭に血が上ってきたものでした。

 

それがこの巨漢も云っていた・・・庖丁の線の不確かさ―――・・・

 

それにこの巨漢は、いくら食堂が煩雑している時でも、丁寧に・・・且つ、迅速に料理を仕上げていく手並みに、ヤノーピルも次第に感服していったのです。

 

 

そうこうしていくうちに、昼間の煩雑時を過ぎたころ、特級の腕前をどこで身に付けたのか、訊いてみたところ―――・・・〕

 

 

べ:(ベェンダー;云うまでもないことだが、ガラティアに創造されたホムンクルス(人工生命体)

  この度の戦役により、一度は滅せられたが―――創主・ガラティアの手により再びこの世に甦る。)

  ああ―――そのことならば、私の創主が滅法お酒を好む方でありまして、私はその酒の肴を作る役目でした。

  最初の内は不慣れなことも相成りまして、創主からはよくお叱りの言葉を承ったものです。

  曰く・・・先ほどの私の言葉同様―――庖丁の線がなっていない・・・と。

  まあ―――あの時の言葉は、云うなれば創主の受け売りと云ったところですね。

 

ヤ:はあ〜〜・・・・あんたも色々大変だったんだなぁ―――でも、お陰でそれだけの腕前にもなった・・・

 

べ:フフ―――それも、今思うと・・・ですよ、扱(しご)かれているときは少しもそんなことは思わなかった。

  それに・・・さらに創主は、こんなことも教えてくれました―――

 

料理とは―――ものの理(ことわり)を料(はか)ること・・・

つまりは―――どれだけものの道理を判っているかに通ずる・・・

(に)る―――割(さ)く―――などの手順は誰にでもできる、

けれどそんなモノは所詮、料理屋の料理―――・・・

いくら手順だけを覚えたところで、本当に良いモノが出来るわけじゃないんだよ―――・・・

 

ヤ:〜〜・・・・・。

べ:―――おや?どうしましたか。

 

ヤ:いや・・・凄ぇ―――凄ぇことを云ってのける奴もいるもんだな・・・って―――

  そんなことが云えるあんたの創主―――って、一体誰なんだい。

べ:それは―――・・・あ、いらっしゃいませ。

 

 

〔その巨漢―――ベェンダーも、最初のうちからそうではなく、厳しい創主の教えを受けてそうなったのだ・・・と、教えたのです。

 

けれどそれは―――真に「ものの理(ことわり)」を知っていた者からの教えでもあることから、

ヤノーピルも次第に、この一流の腕前を持つ料理人の主のことに興味を抱いたものだったのです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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