≪四節;独裁国家≫
〔しかしながら、この「ロマリア帝国」は、敵対する部外者を招き入れるほど寛容ではありませんでした。
徹底した管理システム―――純粋なる、「皇帝」の「皇帝」による「皇帝」の為だけの政治・・・
早い話し、典型的な「独裁国家」だったのです。
それに、そう云った国家における「官僚」の類も、そうなってはお飾りも同然―――
政治の中枢は完全に軍部が握り、その統帥権も皇帝が有するとあっては、最早国民の意思などあってなき様なモノだったのです。
そうした国情は、エルムドア大公爵も来た当初から感じており、自らの魔力で創造した「巣」なる隠れ家に身を潜ませながら、
自分の指の分身たちを使って、帝国に対抗する組織・・・「レジスタンス」の活動をするのが精一杯だったのです。
つまりは―――このお話し・・・「ロマリア篇」の最初期に、ヨハンが憲兵達に追い立て回されていたのは、そうした背景からなのです。
それに・・・そんな者達は、帝国側にとっては邪魔者―――「ペルソナ・ノン・グラータ」でもあったが為に、徹底的にマークされていたことは否めなかったのです。
それにしても・・・徹底的にマークされている事が判っていたからこそ、用心をしていたものだったのに・・・それなのに―――・・・
この国の兵士の一人となって、巧く敵の目を欺いて情報の収集に勤しんでいたものだったのに、
まさか・・・この国の科学技術の進歩が、こうまで目まぐるしいしいモノだとは思ってもいませんでした。
ルカは現在―――ロマリア帝国軍基地の一つ「マレフィカス」内部に潜入し、自分達の活動に有用な情報を引き抜いている最中でした。
ところが・・・その最中に何かのセンサーに引っかかったらしく―――〕
ル:(!!)あっ―――しまった・・・!
〔突如として大きく響き渡る、警告の為のブザー音―――それを聞きつけて、集まり始める兵士の足音・・・
しかも、その時ルカが触った物とは、「ブービー・トラップ」であったらしく、警告のブザーだけではなく、
それまで巧く敵を欺いていた変装まで解けてしまうと云うおまけつきだったのです。
それにしても・・・ここまで来るのにも大変だったのに―――・・・
今までは、施設の一つ一つに入るにしても、「ID」などのカードリーディングが必要で、まだ更なる奥の階層に進むには、
「静脈照合」「網膜照合」「声紋照合」・・・と、セキュリティは厳しくなっていき、
それが「最高機密」ともなると「アストラルパターン」「DNAパターン」「イデアパターン」を採用、照合する高度なモノまで出る始末―――
加えて・・・現在のルカは「ブービー」に引っかかって、自分の姿―――ヴァンパイアである姿を白日の下に晒していたのです。〕