≪五節;追われる者≫
〔しかも最悪なことに・・・こうなった事態の事を考え、今は撤退―――逃げるしか方法は残されていなかったのですが・・・
なぜか術式を行使しようにも、発動しなかった・・・出来なかった・・・
しかし、この状況から考えられる事はただ一つ―――
この国は、自分達ヴァンパイアの術式を封じれるまで科学技術を発達させていた・・・
それにもし―――自分が捕まれば・・・
それは、彼女がこれまでに見てきたモノの一つにもあったように―――
「フォルマリン漬け」にされた、人間ではないあの被験体の様に―――
徹底的に弱点を調べ尽くし、そうした標本の一つにされるのだろう・・・
しかも彼女は「女性」であり、そうしたことから考えると、この基地の研究員たちの慰みモノに・・・格好の性の対象にされてしまう―――
あまり大して強くもない癖に、無抵抗な弱い者に対しては残虐な面を覗かせる・・・
ルカは、そうした者達を侮蔑し、また畏れを抱いていました。
だからこそ彼女は、「逃げ」の一手を打ったのですが―――彼らにしてみれば、「獲物」がどう逃げるか熟知していたので、その先々で待ち伏せて逃げ道を塞ぐだけで良かった・・・
徐々に包囲網は縮められ・・・これでは、ルカの淫らな標本が出来上がるのも時間の問題―――・・・
そこでルカは、自分の不心得を呪い、父であるエルムドアや兄であるセルバンテス―――弟のヨハンに赦しを乞うたのです。〕