≪六節;アンブレラ往来≫
〔そんな時に・・・現れたのが―――あのアンブレラ・・・〕
兵:―――ぬっ?!貴様は何者だ!
ア:わたくしの事ですか・・・それよりもまず、一人のか弱い女性を―――屈強な兵士であるあなた方が、これからどうしようと云うのか・・・
その事の申し開きからするのが「筋」だとは思いますが・・・いかがですか。
兵:なんっ・・・だとぉ―――生意気な・・・それに、その女を庇うと云う事は、お前もその女と同類の様だな・・・
まあ構わん―――貴様一人が我々の邪魔立てをしたところで何も変わらん・・・いや、我々の目の保養となる「媚肉のオブジェ」が一つ増えるだけだがなぁ・・・
ル:あ―――あなた・・・は・・・
ア:・・・・・・・・。
『ルカさん―――良くお聞きになって下さい、今のわたくしの影は亜空間へと繋がっています・・・』
ル:『え・・・あなたの影が―――亜空間に・・・?』
ア:『はい・・・そこならば、この基地に張り巡らされている「結界」の影響は受けないでしょう。
では・・・合図と共に―――宜しいですね・・・』
〔「あのアンブレラ」とは、やはりヱニグマでした。
ですが彼女が、如何様にしてルカの危機を知り得、またこうして基地の内部に侵入できたのか・・・そこの処は不明のままでした。
それに彼らは、信じたくはないけれども最新式の高度な技術を駆使し、ヴァンパイアである自分をあと一歩のところまで追い込んでしまっている・・・
そんな処に、彼女が一人増えた処で状況は好転はしない・・・それどころか、この基地の研究員や兵士達の目を悦ばせる淫らなオブジェが増えてしまうだけ・・・
なのになぜ―――・・・
ルカが思っている事は、或る意味妥当だと云えました。
或る程度の高い魔力を備える「魔族」としてのこの種族は、どんな手段を使って魔力と云うモノを持とうとも、決して足元にすら及ばない種族―――
だからこそヴァンパイアは、いつの世も人間達の脅威となり、また天敵たり得てきたのです。
ところが・・・この大陸の人間達は、どこか違うように感じた―――
今まではただ怯えるだけの脆弱な種族が・・・一体いつから、自分達にも拮抗できるような技術を持ち合わせるまでになった―――?
もしかすると、これがこの地方での人間共の進化―――?
ルカは、次第に追い詰められていく内に、ネガティヴな思考へとなって行きました。
そんな時に、ヱニグマからテレパシーで促されたのです。
「自分の合図と共に影に入るように」―――と・・・
そして―――「合図」は・・・〕