≪三節;畏れていた事態≫
〔一方同じ頃―――「地下」にいる「レジスタンス」とは対照的に、要塞都市の上部では・・・〕
佐:(大佐;帝國軍部内の、残忍にして冷徹極まりない、幹部の一人)
―――ほう・・・で、取り逃がした・・・と。
尉:(中尉;「大佐」と比べると、幾分か見劣りはするが・・・歴とした帝国軍人。)
はっ・・・申し訳ございません―――当番の者の申すには・・・
―――あっ?? な・・・なに・・・を・・・
佐:部下の不手際の責任は、上官である貴様が取れ・・・
尉:ひいぃっ・・・お、お赦しを―――カ、カーネル・・・
〔その一室では、今回、捕獲寸前まで迫ったものの、結局の処、獲物に逃げられてしまった事の次第の報告を、部下である「中尉」から聞く「大佐」の姿が・・・
しかし、その表情は「ニコ」ともせず、只・・・面白くもない報告を、相好を崩すでもなく、無表情で聞いていたのです。
すると、次第に飽いできたのか、それから先の弁明には聞く耳持たず、持っている鞭で部下を処断してしまったのです。
それにしても、どうして彼は、部下からの報告を途中までしか聞かなかったのでしょうか。
一つ考えられるのには、「二度」は必要ないと思っていたから・・・
それが本当だとしたら、この大佐の部下である中尉よりも以前に、同様の報告が既にあった・・・?
では一体、誰が・・・何のために―――・・・
それに大佐も、その人物からの報告には興味を覚えてきたモノと見え、部下からの注進と云う事もあり、一時的に外していた席に戻り、続きを聞こうとしたのでした。
しかし―――この人物は・・・〕
佐:いや、手間を取らせてしまったようだ―――無能な部下を持つ上官は、立場として辛いモノがありますな・・・
それで―――お話しの続きをお伺いいたしましょうか・・・ご婦人。
〔大佐より「ご婦人」と呼ばれた人物こそ、あの「ヱニグマ」でした・・・。
先程まで、ヴァンパイア達の「隠れ家」で、彼らと行動を共にしていた存在が・・・どうして―――?
しかし、この謎めいた行動も、報告の詳細を聞いた大佐の、この一言から判ってきたのです。〕
佐:ほう―――これは面白い事を云われるものだ・・・
では、あなたが、私の部下達が追っていた存在を逃がした張本人である・・・と?
フ・フ―――何も知らなさそうな顔をしておきながら、なんとも大胆不敵な・・・
我らと、その「ヴァンパイア」なる者達とを、両天秤にかけようとは・・・
それで、あなたの「寝返り」の条件を、お聞かせ願えますか―――「ユリア=F=クロイツェル」
ユ:(ユリア=F=クロイツェル;このお話しより改名をした、「ヱニグマ」。)
別に・・・条件と云うほどのことではありません。
敢えて云いますならば、「古巣が恋しくなった」―――それでは駄目ですか。
佐:フフフ・・・これはこれは、この私を前にしてなんと豪胆な。
そのような牝犬―――私は嫌いでは・・・ない。
それにしても、「古巣」―――とは、いかなる所以ですかな。
ユ:これは失礼を―――少しばかり説明不足だったようです。
正しくは・・・「古巣の様な処」―――わたくしは、永い間、鳥籠の様な処へ囚われ、その制約に息が詰まる思いでしたの。
けれど、そうした反面、従順そうな「仮面」を被って大人しくしていた処に、今回「白羽の矢」を立てられまして・・・
佐:ふむ・・・それで我々に―――と・・・動機としては、今一つ不透明な処があるが・・・
この、名前にある「F」とは、何の略なのですかな。
ユ:・・・「フレグラント」―――です。
佐:(ふむ・・・)では、奴らの「計画」と云うモノを、お聞かせ願えましょうか・・・。
〔図らずも、「ユリア」と名を変えたヱニグマが頼ろうとしていたのは、非情・冷酷で知られる帝国軍人の「大佐」でした。
しかも、その際には、ヴァンパイア達が企てていた「計画」を、「手土産」にして・・・と、云う、用意周到さ―――
それに・・・「息の詰まる環境」と云う表現まで添えて―――とは・・・
「パライソ」や「シャクラディア」では、衆人監視の眼があり、自分の行動には何かと制約が付き纏っていた・・・
そんな処へ、他の地域へ飛んでみないか―――と、誘われ、別離の際には、情に脆い涙さえ流したモノでしたが・・・
やはり本心は、不当な扱いを受けた故の、怨みばかりが積もっていたと云うのでしょうか。
しかし、それは同時に、ルカが抱いていた不安が、現実のモノになろうとしていた瞬間でもあったのです。〕