≪五節;情報漏洩源(ディープ・スロート)

 

 

〔それは、この話し合いが終わる頃に、出てきたのです。

そう―――疑惑の人物、ユリアが・・・さも、不安そうに眉を(ひそ)め始め・・・〕

 

 

セ:・・・ところで、ユリアさんよ―――あんた、どうしてそんなに(くら)()()をする。

 

ユ:わたくしは・・・今、とても不安なのです―――

  無事に・・・この集会が、終わると良いのですけれど・・・

 

ル:ちょっと、あなた? 突然なんてことを云い出したりするの―――

  大きな「集会」を目前に控えて・・・計画は、動き始めている、今更、変更しようがないのよ?!

 

セ:・・・ディープ・スロートのことを云っているのか―――。

 

ル:えっ・・・今―――なんて云ったの? セルバンテス―――

 

ユ:・・・その通りです。

  しかも、そのディープ・スロート・・・この場にいる誰かと、容姿(すがたかたち)を、恐ろしく似通わせているのだと・・・。

セ:ククク―――それが、あんた「自身」・・・と、こう云うわけか。

  ま、疑われても、仕方のねえ事だ・・・な。

 

ヨ:そんな・・・兄貴は間違っているよ! ユリアさんがそんな事をするはずがない―――

 

セ:お子ちゃまは黙ってな―――

  それで・・・疑われたあんたとしては、どう弁解をするつもりかね。

 

ユ:・・・弁解をする余地など―――生憎(あいにく)、わたくしは持ち合わせておりません・・・。

  ですが、これまでの経過並びに成果などを、逐一報告しなければならない義務も、わたくしに課せられているのです。

  それがもし、途絶えたとなると・・・

 

セ:フッ―――フ・フ・フ・・・随分とまあ、虫の好い話しをするもんだなぁ。

  お子ちゃまのヨハン程度だったら、その脅しにも屈しただろうが・・・相手が悪かったな。

  現在この(なか)で、統括・指揮権を与えられているのは、この「侯爵」セルバンテスだ・・・。

  そのオレが、その事実を知った上で、容疑者を野放しにしておけるほど、甘ちゃんだと思っていたのか。

 

  この女を・・・拘束部屋に入れておけ―――それも、無期限に・・・だ。

 

 

〔彼ら―――ヴァンパイアの一族ではないユリアが、その時見せた(くら)い表情・・・

その原因とは、レジスタンス内部の、極限られた一部の者―――つまり、幹部の人間だけが知り得ていた、極秘情報・・・

今回の、自分達の計画は、事前に帝國側に漏れているのではないか・・・と、云う事と、

この「情報漏洩源(ディープ・スロート)」の身元も、不確定であるとは云え、その特徴が、幹部達の間で、(まこと)しやかに(ささや)かれ出していたのです。

 

しかも、その「特徴」というのも―――・・・

「菫色の長髪を(なび)かせた、真紅の眸を持つ女性・・・」

 

そう―――それはまるで、ユリアそのものを指示(さししめ)していた・・・

 

しかも、疑いようのないことに―――

あの日、大佐との面会を終わらせて、要塞内部から出てきたところを・・・

なんと、セルバンテスに見られていたのです。

 

だからこそ、ユリアに対し、腰の強いことを述べていたのですが―――

一つ間違ってはならないのは、現在のユリアのスタンス・・・

実際に彼女は、「レジスタンス」「帝國」の「現場」、双方に立ち会っていた・・・と、云う事。

 

つまり彼女は、()()な物の見方ではなく、もう少し広い目線で、この大陸で起こりつつある事象を見極めようとしていたのです。〕

 

 

 

 

 

 

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