≪六節;生贄の山羊を祭壇に・・・≫
〔こうして、自分に被せられた疑いを晴らすことが出来ないまま、ユリアは拘束部屋へと入れられてしまいました。
しかし―――・・・〕
ル:そんな・・・では、私達の計画は、既に漏れている・・・と?
セ:だろうな―――か、と云って、その為の準備は着々と進められてきている。
一週間前・・・とは云え、先程お前が云っていたように、今更計画の変更を申し出た―――と、しても、どうにもする事が出来ないだろう・・・。
それにだ、もし、話し合いの場を設けられたとしても、今度はその現場を押さえられかねない。
ち・・・全く、とんだお荷物を背負い込んじまったもんだぜ―――
ル:・・・では―――
セ:ああ、恐らく、この「集会」は失敗に終わるだろう。
但し、これが「スケープ・ゴート」なら、やることに意味合いを持つことになるが・・・
ル:生贄の・・・山羊―――それを祭壇に・・・と、云う事ね・・・
〔そこから先は、セルバンテスも多くを語ろうとはしませんでした。
それと云うのも、生贄の祭壇に登る対象物の運命など、所詮は知れていたのですから。
大事なのは、その「生贄」が、どんな惨い目に遭ってきたのか―――と、云う既成事実と、
その事実を糧にして、次なる世代が、どう教訓に生かしきれるか―――
または、新たなる・・・それでいて、以前とは比べ物にならないくらいに、強固な意志の下で一致団結する、強い抵抗勢力に生まれ変われるか・・・
これは・・・人間達に課せられた、新たなる試練でもあったのです。
それはそうと、「巣」内にある拘束部屋にて、身柄を抑えられていたユリアは―――・・・〕
ユ:・・・どうやら、頃会いとしては十分の様ですね。
コンタクト―――『我はヘテロにして、ヱニグマである』・・・
ガ:『おや、あんたにしては遅かったようだけど・・・それで、どうだったね。』
ユ:やはり、あなたの仰っていた通りでした・・・。
確かに、資料として頂いていたように、表向きでは、この国は、皇帝による「専守先制」―――それも、「独裁」・・・「ファシズム」の色が濃く出ているようにさえ感じましたが、
その皇帝すら、裏で操る組織が存在していたのです。
その組織の名は・・・口も憚られる名こそは―――「ヴェロー・シファカ」・・・
ガ:『あっちゃあ〜ビンゴ―――か・・・まさかとは思っていたけど・・・
だとすると、あんたには苦労をかけてしまうようになるかねぇ―――』
ユ:ガラティア・・・あなたらしくもない―――
わたくしはもう・・・彼等を束ねていた存在ではないのです。
嘗て、彼らを束ねていた、「黒衣の未亡人」の「ヱニグマ」ではないのです。
現在のわたくしは・・・あなたの艦である「ゼニス」の一乗務員。
「ヱニグマ」と云う存在は、あの日あの時・・・淘汰されてしまったのでございます・・・。
ガ:『そいつは悪かった・・・どうやらつまらないことを云ってしまったようだよ。
ところで、現在はどのフェーズまで行ってるんだい。』
ユ:・・・「間もなく、生贄の為の祭壇が築かれ、山羊はその壇上に」―――
ガ:『「第三フェーズ」か・・・あと一息の様だね。
こちらからは何もしてやれないけれど―――』
ユ:そのお言葉だけで、充分でございます。
それでは、わたくしには、まだやり残した任務がありますので・・・これにて失礼を致したく―――
〔この場所は―――ヴァンパイアの長である、大公爵が行使する、超高度な術式によって形成された場所。
この次元空間にありながらも、実際には、この次元空間にはない・・・そんな特異な、異質な場所―――
そんな歪曲された空間の内では、意思の疎通・・・況してや、遠く離れた場所にいる相手との交信も、儘ならぬ筈なのに―――
それをユリアは、ある人物に、自分がそれまで収集してきた情報の報告をする為、コンタクトを取っていたのです。
しかも、その「ある人物」こそは―――・・・ユリア自身を、この大陸に派遣させた張本人、
宇宙広域開拓事業団「フロンティア」の最上級幹部である、「ガラティア=ヤドランカ=イグレイシャス」その人だったのです。
それにしても不思議なのは、どうしてユリアが、現在銀河系内を航行中の、「ゼニス」艦内にいるガラティアと交信出来ていたのか・・・
多くの方はお忘れかもしれませんが、ユリアこそは、以前には「女禍」と死闘を繰り広げた程の実力を持つ、「ヱニグマ」で、あった・・・
そしてそのことは―――だからこそ、ルカの不安を煽ってしまえる動機にも成り得ていたのです。〕