≪三節;破滅へと導く者≫

 

 

〔ともあれ、スターシアの役目は、ある人物の計画に支障をきたさないよう、邪魔者を排除するだけだったので、

彼女自身がこれ以上、手を出す事は控えたのですが・・・

 

逆を云うと、その沈黙を、小手先で捻られてしまったように感じた者達は、どう捉えたのか―――〕

 

 

佐:う・・・ぬぅぉおお〜! こ、この様になった我らを、まだ愚弄する気か!

 

ス:そうではない・・・私の出番は、「ここまで」―――と、云う事だ。

  元々、「この国の情勢を鎮めよ」―――との、命を受けたのは私ではないのでな。

 

佐:な・・・んだと―――この国を鎮める??!

  どう云う・・・ことだ、それは―――この国は、我らの手によって統一されているのだぞ!

  それを・・・っ―――!

 

ス:いかが・・・かな、これで、こちらの計画を邪魔する者は、いなくなった―――と、私は見るが。

 

佐:貴様・・・っ、なぜ私の質問に答えぬ―――!

  それに・・・っ、今、一体誰に向かって・・・

 

  (!)そう云えば―――その命令を受けたのは、貴様ではない・・・と、云っていたな―――

  誰なのだ・・・そのような、下らぬ命令を受けたのは―――!

 

ス:・・・やれやれ、職務に忠実なのは、真にもって結構なことだ―――願わくば、お前の爪の垢を、煎じて飲ませたい奴がいるのだが・・・それはまたの機会にする事にしよう。

  それより、身体の動かせられない今くらい、少しばかり休んではどうなのだ―――

 

佐:うおぉ・・・おのれ―――ふざけおって!

  くぬっ・・・う、動け! 動かんか―――私の手足よ!!

 

 

〔大佐にしてみれば、今のこの時、動かせられない自分の体ほど、歯痒い事はなかったことでしょう。

 

指の一本でも、動かせられれば、或いは―――・・・と、考えていた事も、あるにはあったようなのですが・・・

事実として、残念なことながら、彼らは今回の一件に関しては、完全に蚊帳の外―――だったのです。

 

それもそのはず―――この国を鎮圧するのに、最も手っ取り早い方法・・・

それが、この国に巣食い、裏から政治を操っている謎の集団―――「ヴェロー・シファカ」の壊滅を、

自分の盟主なる存在から一任された人物が、既にここにいたのですから。

 

しかもその人物は、この―――今までの一部始終を、両の眼にしっかりと焼きつけていたのです。

 

そして、その人物こそ―――〕

 

 

ユ:ご苦労さまでございます。

 

ニ:うん? ま・・・まさか―――あなた様が?!

 

ユ:あなたの、その質問に応える必要はありませんでしょう―――

  彼女からの呼び掛けに応じ、わたくしが盟主より拝命した事を履行する為、この場に現れている―――と、云う事をもってすれば。

 

ニ:う・・・ぬうぅ・・・おのれ―――ゲブの奴め!とんだ女狐を掴ませてくれおったな!

 

ユ:お間違えのなきよう―――第一あなたは、(さき)のゲブ同様に、わたくしを疑う事をしなかった。

  そして、このわたくしを利用しよう・・・などと云う、腐った性根が、自らの破滅を招いてしまったのです。

 

ニ:だが、しかし―――お前は、あの「ヱニグマ」様の生まれ変わりなのだろうが・・・!

 

ユ:そこの処を・・・否定しようとは思いません。

  事実わたくしは、ヱニグマなのですから―――

 

ニ:なんだと・・・ならばなぜ、私達を滅ぼそうなどと―――

 

ユ:―――・・・。

 

ニ:な・・・っ?! ヱニグマ様―――!

 

ユ:わたくしからのお話しは、以上でございます・・・。

  あなた方も、速やかに―――滅し(そうらえ)・・・。

 

 

〔既に、この場に居ながらにして、涼やかなる表情を(たた)えていた人物こそ、ゼニス艦長ガラティアより、「ヴェロー・シファカ」討伐の任を請け負っていた、

ユリア=F=クロイツェル―――その人だったのです。

 

しかも、それまでユリアのことを、ヱニグマの生まれ変わりだと信じて()まなかったニコライにしてみれば、動揺の色を隠せられなかったようですが・・・

同時に抱いていた疑問として、ならば―――なぜ自分達が所属していた組織の長(の、生まれ変わり)が、自分たち諸共(もろとも)を壊滅させようとしていたのか―――

しかし、ユリアはその事を訊かれたとしても、全く答える事はしなかったのです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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