≪四節;実力の隔たり≫
〔しかし―――自分たちへのこの「仕打ち」に、次第に怒りを覚え始めたニコライは・・・〕
ニ:な・・・なるほどな―――そう云うことだったか・・・ならば! この私がお前を返り討ちにしてくれる!
この私とて、「ヴェロー・シファカ」の長、ニドなのだ!!
食らうがよい―――この私の、全身全霊を込めた一撃を!!
〔この時、「ニド」こと、ニコライ=ドヴォルザークは、自分とその女性との間に隔たっていた「実力の差」と云うのを、あまり考えず・・・
まさに、己の身も砕けよ―――と、云わんばかりの、捨て身・・・所謂「玉砕」覚悟の一撃を放つのですが、
ニコライとユリアとの間に、隔たっていたモノとは、斯くも大きいモノだったのです。
それを喩えるなら、「天と地」「象と蟻」「神と人間」―――この差を形容する時、それ以上の表現の仕様はありませんでした。
つまるところ、両者の実力の差とは、哀しいかな・・・それほどまでに隔たっていたのです。〕
ニ:グハハハ―――それ見たことか! この私を格下と嘗めてかかるからこういうことになるのだ!
フフフ・・・永かった―――今までは雲の上の存在よ・・・と、崇めていたヱニグマも、今となっては過去の存在・・・。
そして、これで私は、名実共に―――
ウフフフ―――・・・
ニ:な・・・なに―――?! あの女の笑い声だ・・・
そんな莫迦な―――あの女は、私の渾身の一撃を受けて、爆ぜ散ったはず・・・なのに―――
〔ところが、どうしたことか―――ニコライの渾身の一撃を、ユリアは身を躱ことなく、まともに受けてしまったのです。
すると、当然のことながら、ユリアの身体は爆ぜ散り―――その場には、血肉さえ残らなかったのですが、
勝利を確信していたニコライの耳に・・・どこからともなく聞こえる―――あの女の笑い声・・・
そんな莫迦な―――確かに手応えは、あったはずなのに・・・
けれど、現実として―――彼の笑い声の後には、爆ぜ散る前と同様の、女の肢体が・・・
この事に、奇妙さを感じたニコライは―――〕
ニ:な・・・なぜ―――なぜなのだ!!
お・・・お前は、私の渾身の一撃を受け、確かに爆ぜ散ったはず―――!!
〔先程と同じ様なセリフを繰り返しながら、ニコライは二撃目を放ちました・・・。
そして、やはり先ほどと同様に、ユリアの身体は爆ぜ―――しかし今度はすぐに、彼女が何人も・・・??〕
ニ:ばっ―――莫迦な・・・コレは一体、何のまやかしなのだ!!
あ・・・あの女が―――何人も見える!!
〔「アンディカトプトリズモス」―――砂漠に浮かぶ幻が如く、対象者に見せる幻術・・・
それは、その女性が何人も見えてしまう、「幻惑の術」―――
そう、ニコライがユリアだと思って、渾身の一撃を叩きこんだのは、ユリア自身が持つ事を赦された、さあるアーティファクトによって見せられていた、幻の一体に過ぎなかったのです。
つまりは、それに気付くでもなく―――また、気付かされるでもなく・・・両者の実力の隔たりとは、こんなにも格差があり過ぎていたのです。〕