≪五節;地よりの呻き声≫
〔しかし―――そうであっても、盟主より下った命は、必ずや履行すべきモノであり・・・〕
ユ:「ヴェロー・シファカ」の現在の長である、ニコライ=ドヴォルザーク・・・
あなたと、あなたが率いる組織は、永らくこの国の人達を虐げ、またその惨状に目を向けなかった事は、人道的にも・・・また倫理的にも、悖る行為でございます。
よって、あなたは―――
ニ:ま―――待て! 待ってくれ・・・じょ、冗談じゃない。
私を裁くと云うのなら、その前にお前はどうなのだ! この私達が「罪ある者」だと云うのならば、元々私達を従えていたお前自身はどうだと云うのだ!
この私を罪に問う前に、それから明らかにすべきだろう!
ス:見苦しい・・・命乞いをしたかと思えば、次には他人に罪を擦り付けようとするとは―――
お前は、見ていて耐え忍びない・・・いっそのこと、この私が―――
ユ:ラゼッタ、お待ちなさい―――
なるほど、確かにあなたの仰り様に、一理あるようです。
あなた達を率いていた「ブラック・ウィドウ」の首領である「ヱニグマ」が、わたくしであると云う事は、最早曲げられない事実・・・
ですが―――わたくしは、フロンティアに折伏されてしまい、その存在の総てを書き換えられ、こうしてあなた達を滅する為に現世に蘇った―――
・・・と、そう云う説明をすれば、納得がいきますか。
ニ:な・・・なんだと―――では・・・
ユ:フフ・・・まあ、その事が事実であろうがなかろうが、現実としての「今」は、「悪は折伏されるべきモノ」―――と、そう捉えているわたくしがいるわけなのですが・・・
ニ:う・・・むぐうぅぅ・・・お―――おのれえぇい!!
ユ:もう、これにて終幕とする事に致しましょう・・・
穢れあるべきモノを浄化する焔―――ツアラツストラよ・・・
我が奥義を集約するとともに、偉大なる顕現の体現となれ―――
〔自らを「罪ある者」と指定され、これから裁かれようとするときに、ニコライは見苦しくも抵抗を試みてきました。
自分が「罪ある者」として裁かれるのならば、自分達を手足のように動かしていた、大組織の頂点に君臨していた女自身はどうするのだ・・・と。
しかし、この程度の抵抗は、寧ろ想定していた通りと見られ、反論によって打ち崩して行ったのです。
そして、自らの野望が潰えた事を知る処となったニコライは、「玉砕」するしか遺された道はないモノとすると、捨て身による突撃を敢行したのですが―――
しかし・・・
そんな彼を迎え撃ったのは、新たなる「アーティファクト」を授受し、また新たなる顕現に目覚めたユリアの―――・・・
ユリアの前身である「ヱニグマ」が行使していた、あの・・・畏るべきにして強力な「奥義」―――その「大意」を、『終わることの莫き、果てしなく続く地獄』・・・
あの忌まわしき御業が、「聖」や「善」に代わると、こう進化する―――・・・
云い伝えによれば、『地より呻く声』―――而してその名称は・・・「スアラ・ナラカ」・・・
その、「聖なる火を拝みし者」より発生した業火は、総ての穢れあるモノを取り込み・・・やがて浄化すると云う―――
しかし、強力に過ぎるその顕現は、行使者本人ですら燃やし尽す危険がある為、ある程度の『レヴェル』が必要でした。
そこで―――このアーティファクトを開発したガラティアが、いち早く目を付けたのが、自分の妹である女禍を追い詰めるまでの強さを発揮した、ヱニグマの実力・・・
そして、妹に敗れたのを機に、それほどまでの実力を保有する者を、このまま消失させるのは惜しい―――と、判断し、自らが出向いてまでヘッド・ハンティングをしてきた・・・
それに、ヱニグマも、女禍と直接対峙したことで、彼女自身思う処があったのか・・・
ヱニグマとしての存在を消失する間際に、ガラティアからのヘッド・ハンティングに応じるところとなったのです。〕