≪三節;詳(つまび)らかにされる実態{キリエ}≫
〔それは、旅の道程も半ばをすぎ、レ・テと、アーケロンの二大河を越え、
“西の雄”と呼ばれる、ラー・ジャに入ったようです。
そして、その都ワ・コウの雑踏を抜け、隣国のサ・ライとの、国境付近まで来た時の事、
その・・・国境の杜の付近で、彼女を呼び止めた集団が、いたようです・・・。〕
盗:へ・・・へへへ、ちょ―――いとまちな。
生憎だが、ここから出るにゃあ、通行料―――ってなのがいるんだぜ?
キ:(この者達・・・・) 追い剥ぎ・・・か。
盗:おぉよ! だったら・・・どうだってぇんだ!!
何なら・・・・お前ェの・・・身ぐるみ剥いでも、構ゃあしねぇんだぜ??!
キ:(嘆かわしい・・・) これが・・・“西の雄”と謳われた、ラー・ジャの成れの果てか・・・
お前達に、恵んでやっても構わないのだけれど・・・
今は、こちらもそれどころではないの。
生命(いのち)が惜しければ、大人しく引き下がりなさい・・・・。
盗:な―――っ?!なんだと?? くぉぉのやろぉ・・・
盗:このオレ達に刃向かうたぁ、いい度胸してんじゃあねえか!
盗:こぉんのズベタが・・・望みどおり、ひン剥いてくれりゃあぁ!!
キ:(フ・・・・フフフ) 一応・・・忠告はしておいた・・・・わよ。
〔なんと・・・あと一息で杜の出口というところに、追い剥ぎたちに絡まれたようです。
しかし、キリエは、彼等に臆するどころか、挑発をしたようです。
(・・・・が、当の本人は、そうは思ってはいないようなのですが・・・)
そして、その集団のリーダー格の男が、号令をかけると共に、十数人からの暴徒共が、
たった一人の女性の躰に対し、群がり始めたのです。
ですが―――
ここで、一番に勘違いをおこしていたのは、今、襲われている女――――ではなく・・・・
自分達に対し、無礼を働いた女を、玩(もてあそ)ぼうとしていた、この男達だったのです。
そう・・・そこにいる、誰もが気付かないでいたこと・・・・
それは、彼女の―――キリエの、遥か後方で揺らいでいる、実体を持たぬ者がいるという事・・・・・
そして、その盗賊の集団共・・・・
全く無抵抗のキリエを押し倒し、衣服から持ち物、身に付けている装飾品までを奪った後・・・
陵辱の限りを尽くし始めたのです・・・・。〕
盗:ヒャ〜〜――――ッハッハハ! 見ろよ!この女(あま)ァ!
あぁんなでけぇ口を叩いた割りにゃあ、抵抗なんざ一つもしねえぜ!?
盗:あぁ〜〜、しかも、上等の躰までしてるときてやがる・・・こいつは儲けたぜ!!?
盗:こいつは・・・このままにしとくにゃあ勿体ねぇ! そうだな・・・オレ達の肉奴隷としちまおうじゃあねぇか!?
盗:そいつはいい考えだな――― ギャ〜〜――――ッハッハッハハ!
キ:・・・・・・。
〔無惨にも・・・一糸纏わぬ姿にされ、一通りの洗礼を受けたあと、打ちひしがれるように、捨て置かれた女の肉体―――
誰しもが、その惨状に、目を覆いたくなる――― はずなのですが・・・・。
実は、異変はこの時、既に起こっていたのです。
なぜなら―――
周囲の位相の暗転――――
そう・・・固有領域の、次元隔壁の崩壊が、既に起きていたのです・・・。
と――― いうことは・・・
この時――― 彼等の遥か後方より・・・実にも恐ろしき声が・・・・〕
―――クク・・・クククク・・・・・これだから、愚か者共は、手玉に取りやすい―――
盗:(な、なに?)なんだ・・・?今の声・・・
盗:な、なんだか・・・まるで・・・肚の底から響いてくるような・・・
―――まぁだ気付かぬと見える・・・―――
―――今、そこに横たわっておるのが―――
―――私の姿を模した、疑似餌に過ぎぬものを―――
〔そう・・・その声は、こう言ったのです。
『そこに横たわる、女の裸体は、疑似餌に過ぎない』
と・・・。
そして・・・この時、恐怖のほうから、ゆっくりと・・・・確実に、この集団に近付いてきたのです・・・・。〕
ぐるルルル・・・・・
盗:(え・・・?)はわ・・・ぎぃやぁぁ〜〜〜っ!!
盗:な、なんだ・・・こいつわ!!?
盗:どっ・・・・ど・ど・ど・・・・・ドラゴン?!!
盗:こ・・・こんな化け物が、なんでこぉんなとこにぃぃ〜〜〜?!!
〔そこには―――
身を、青緑色の鱗に覆われた、巨大な竜と――――
その竜に、その身を臍の辺りまで埋まり―――
(いや―――“同化”といった方が、妥当か??)
見慣れぬ鎧兜と―――
左手に、『凍てつきの画戟』と呼ばれる=フローズン・ハープン=を携えた―――
一人の女性の騎士が―――
いたというのです・・・・。
しかも、その女性騎士、徐(おもむ)ろに被っていた兜を取ると、そこには―――!〕
盗:はわわ・・・お、お前・・・その顔―――?!
キ:(キリエ=クゥオシム=アグリシャス;この・・・恐ろしき竜の騎士こそが、真の彼女の姿・・・(ちなみに、彼女の種は、『デス・バハムート』))
フ―――・・・フフフ、しかし、疑似餌とはいえ、この私をそこまで辱めたのだ・・・
無論・・・弁明の余地など、あるまいよなァ・・・・。
盗:(こ・・・ッ、こいつ・・・化けもんのクセに・・・ひ、人の言葉をを??)(ガチガチ・・・)
キ:おや――― 以外だったかな? この私が、流暢に人間の言語を解するなど―――
だが・・・勘違いするではないよ・・・・
この私は、こう見えても、総ての種族の言語に通じている・・・伊達に長生きはしてはいないのさ・・・・。
盗:は・・・・ひゃあぁぁ〜〜〜・・・・
盗:(お・・・オレ達の、頭で思ってること・・・分かってんのかぁ〜〜〜っ???)
キ:(ククク―――・・・) お前達のような・・・下卑た輩が思いそうな事など・・・こちらはとうにお見通しよ。
さぁ――― 今すぐ返してもらおうか・・・・
お前達が、私から奪ったモノ総て――――!!
盗:は・・・ひゃああぁ〜〜〜か、返すんだ!! お前ら!返すんだ――――ッ!!
〔こうして――― 女から奪った物、総てを返し・・・それで犯した罪を償った――― これで赦してもらえる―――
その時、誰しもが、そう・・・・思っていた事でしょう・・・・
――――が、しかし・・・・〕
キ:フフ――― よしよし、いい子だ、中々聞き分けがいいようじゃあないか・・・。
その―――
ご褒美に―――
お前達には、須(すべか)らく、死を賜ってやろう・・・。
なぁに・・・一人として、残しはしないから・・・寂しくなんかは、ないんだよ・・・・。
〔『死』・・・・それは
生命力の中絶――――
肉体の破壊―――
意識の断絶―――
・・・と、言ったような、生易しい表現ではなく。
―――絶対的強者よりの―――
―――搾取―――
しかも、それは、一方の者の、明らかな気まぐれによる、理不尽なまでの―――
そして、それは、その者の気が収まらぬ限り、続いていくのです―――。
こうして・・・一人の無抵抗な女性を襲った者達は、思考が止まりつつある、己の頭の中で、しきりに悔いていたのです・・・
ですが・・・もう、何もかも、遅かったのです――――。〕
キ:(フ―――)それにしても・・・とんだ道草になったものね。
まァ・・・・正当防衛ですもの、仕方のないことよ・・・ね。
〔そして、打ちひしがれるように倒れている、人形のような自分の身代わりに気を入れ・・・・〕
キ:(――――パッパッ!) さて・・・・と、早く先を急がなければ・・・。 〜〜――――♪
〔こうして、まるで何事もなかったかのように、元の静寂さを取り戻した杜を、後にしたのです。〕